シカゴ・ブルーズの25年(2)
P ヴァイン盤『シカゴ・ブルースの25年』ディスク2を一言にすれば、ダウン・ホームでもないがモダンでもない、ということになるだろうか。中間的ってことかなあ。そして軽くなく、ひきずるように重く暗い。この最後の点だけとれば、初期シカゴ・ブルーズのダウン・ホーム感に相通ずるものがあるけれど、もはやフィーリングが異なっていて、どっちかというとソウル・ブルーズ、というか R&B スタイルのブルーズになっている。
それでも、シカゴ・ブルーズのイメージを決定づけているのは、以前リトル・ウォルターの記事でも書いたようにアンプリファイド・ハーモニカのサウンドに違いなく、これはマディ・ウォーターズのチェス録音からずっと同じ。というかだいたいあんな世界はマディのレコードこそがつくりあげたものだ。独立活動のむずかしいハーピストにとってはブルーズ・ギタリストのお抱えとなるのが通例で、そのボスとはだれあろうマディだった。
そんなわけで『シカゴ・ブルースの25年』二枚目前半を占めるハーピストの大半もマディと関係がある。関係ないひとも収録されているが、ルイス・マイヤーズ(ギターのあのひと)、ビッグ・ウォルター・ホーントン、リトル・ウィリー・フォスター、スヌーキー・プライアー、ジュニア・ウェルズなどを並べ、シカゴ・ブルーズのサウンドとはどんなものだったか、端的にわかりやすく示したってことかなあ。
こういったハーピストの録音でも、ブギ・ウギ・シャッフルを土台とするジャンプ・ブルーズ/リズム&ブルーズ調になっているばあいも多く、シカゴ・ブルーズの特色が変化しつつあったということがよくわかる構成となっているのも興味深い。粘りつくように泥臭くブルージーとはいっても、南部感覚に根ざしたダウン・ホームなフィーリングとはかなり違ってきている。都会的なブルーズ・サウンドになってきつつあると指摘してもいいだろうか。
そんな、新時代に行きつつあるシカゴ・ブルーズの持つブギ・ウギ・ベースの洗練された大都会ブルーズといった側面は、『シカゴ・ブルースの25年』二枚目だと13、14曲目のロバート・Jr・ロックウッドで一気に開花。解説文の鈴木啓志さんも(一枚目のジョニー・シャインズの項で)強調なさっているように、ロックッドはロバート・ジョンスンの都会派な部分を継承している。ブギ・ウギでありかつ T・ボーン・ウォーカー的に洗練されたジャジーさもあるんだよね。デルタ・カントリー・スタイルなシャインズとは好対照。ロックウッドのそんなところは、ぼく自身、以前一、二度くわしい記事にしたので省略。
『シカゴ・ブルースの25年』二枚目では、19曲目のエルモア・ジェイムズ「イット・ハーツ・ミー・トゥー」(曲はタンパ・レッド作)やホームシック・ジェイムズ「クロスローズ」で、一気にグンとモダンになっているように聴こえるし、耳馴染みのありすぎるロックウッドに比し、新鮮だ。いや、エルモアなんかはやはりふだんから聴きすぎているが、それでもなんだかちょっと違うよね、典型的シカゴ・ブルーズとは。
エルモア「イット・ハーツ・ミー・トゥー」(チーフ)https://www.youtube.com/watch?v=958Gw-tCbmg
ホームシック・ジェイムズ「クロスローズ」https://www.youtube.com/watch?v=GKLJH23j5HM
どっちもスライド・ギター・プレイで聴かせる、というかそもそもホームシック・ジェイムズのロバート・ジョンスン解釈はエルモアのに沿ったもので、だから二曲ともエルモア・スタイルのモダン・ブルーズというべきか。しかしホームシック・ジェイムズなんかは初期シカゴ・ブルーズ・メンのひとり。それが1960年代にはこんな演唱を残しているというのが、シカゴ新時代を感じさせるもので、おもしろいサンプルだ。
その後、『シカゴ・ブルースの25年』二枚目は、モーリス・ピジョーを経て、かのオーティス・ラッシュ、マジック・サム・バディ・ガイといった完全新世代へと突入。しかし、これはディスク3に収録したいモダン・シカゴ・ブルーズが収録時間の関係でこっちにはみ出しているだけのことだから、明日話題にしようと思う。CD2の22曲目、オーティス・ラッシュの「アイ・キャント・クイット・ユー・ベイビー」が流れてくると、刷新された新世代の登場を痛感する。
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