シカゴ・ブルーズの25年(3)
ところで「25年」と題されているのは、おおよそ1945〜70年あたりと見ていいんだろうか?うんまあだいたいそれくらいだよね、第二次世界大戦後のシカゴ・ブルーズ25年ってことで。それで P ヴァイン盤『シカゴ・ブルースの25年』にはたった二曲、ブルーズ・ウィミンが収録されている。一枚目のメンフィス・ミニーと三枚目のココ・テイラー。比較すれば、たしかにクォーター・センチュリーでシカゴ・ブルーズがどれだけ変容したか、強く実感できる差がある。そのままこの P ヴァイン盤のタイトルを象徴するものだ。
そのココ・テイラーの「ホンキー・トンキー」でもよくわかることだけど、ブルーズ・ソングとしてブギ・ウギ・ベースのジャンプ・ミュージック感覚を土台に持つという素地は、25年が経過しても変化していない。ここは本質なんだろうね。『シカゴ・ブルースの25年』CD3収録の多くの曲でこれが理解できる。がしかし同時に感覚はかなり変化しているのも間違いなく理解できることだ。
主役ヴォーカリストの声の出しかた、張りかた、節まわしなども、ディープになっていくいっぽうで軽妙さを持ち、しかし同時にゴスペル・フィールをもまとうようになっている。うまく言えないんだけど、こう、粘りつくような強さがありかつ、軽さ、ふわっとしたソフトな現代感覚が同居していると思うんだよね。ダウン・ホームなシカゴ・ブルーズに分類される第一世代には、後者がなかった。
そしてヴォーカルも、それからギターやピアノなども、表現がシャープになっている。スマートになっているというか(関西語で言う)シュッとした感じが聴きとれる…、ってこれ、通じる表現なのか?まあ言い換えれば、細身でイケメンふうで都会感覚のある洗練された現代ブルーズっていうかさ、そんなものにシカゴ・ブルーズがなっていったと、『シカゴ・ブルースの25年』CD3を聴けばわかると思うんだよね。しかし同時にゴスペルふうなディープさも獲得している。
また表現様式そのものが変容していると聴ける部分もあって、たとえば CD2ラストの「コール・ミー・イフ・ユー・ニード・ミー」。歌はシェイキー・ジェイクでギターがマジック・サム。また CD3の11曲目、ロニー・ブルックスの「フィギュア・ヘッド」。まずちょっと耳を傾けていただきたい。
Shakey Jake「Call Me If You Need Me」(1958)
https://www.youtube.com/watch?v=kynsJwG-9vg
https://www.youtube.com/watch?v=kynsJwG-9vg
Lonnie Brooks「Figure Head」(1964)
https://www.youtube.com/watch?v=VwGkI8ltfMU
https://www.youtube.com/watch?v=VwGkI8ltfMU
どっちもクールだよね。しかしクール感覚があると同時に、これらはぼくの聴くところ、ファンク・ミュージックに近づいている。ファンク・ブルーズっていうか、特にギターだね、どっちの曲でも。シェイキー・ジェイクのほうではマジック・サムが一曲全体をギター・ソロでラッピングしているが、すなわち P ファンクの手法じゃないか。ギター・トーンもフレーズも、鋭敏だ。
ロニー・ブルックスのほうでは、自身がギターでショート・パッセージを繰り返し弾き反復していることで曲の根幹としているのが耳をひく。こんなのはそれまでのシカゴ・ブルーズにはなかった。まるでヒプノティックな反復構造になっていて、バンド全員で表現するビート感も、現代ファンクのそれだなあ。しかもヴォーカルは軽くてクール。
CD3の23曲目、ボビー・ラッシュの「アイ・ディドゥント・ノウ」は、エルモア・ジェイムズがやったロバート・ジョンスンにはじまり、最後までブルーズ・クラシックスのメドレーなだけで、そこだけ取ると新しさなんてなさそうだけど、ボビーのヴォーカル&ハーモニカだけでなく、不明の特にドラマーの叩きかたに新感覚なファンキー・ブルーズを、ぼくだったら聴きとるところ。解説文の高地明さんはジミー・リード・ビートだと指摘なさり、新感覚なファンキーさはないとおっしゃっているけれど、どうでしょう?
ディスク3のおしりのほうに二曲収録のデトロイト Jr にしても、ピアノの弾きかたはただのブギ・ウギなんだけど、それを土台にしつつ、曲全体の仕上がりにはファンキーなモダン・ビート、現代感覚が聴けると思うんだよね。時代を重ねても決して変化しない本質は維持しつつ、そこに次世代の新感覚を加味して料理しなおし、斬新なワン・ディッシュとして提示する 〜 シカゴ・ブルーズに限らず、どんな世界でもそうかな。
アンソロジー『シカゴ・ブルースの25年』のオーラスはこれ。バスター・ベントンの「マニー・イズ・ザ・ネーム・オヴ・ザ・ゲーム」。黒人社会の経済問題を歌ったマイナー・ブルーズ。たぶん1973年録音で、この当時から現代までも、アメリカ社会で黒人がおかれた状況を、あるいはブルーズ・コミュニティのありようを、ここに聴きとることができる。と同時に、いまの日本人だって共感できるものなんじゃないかな。そう思うんだけどね。いまちょうど日本も hard times にあると思うよ。
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