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2019/02/01

無国籍な青春サウンドトラックとしてのスティーリー・ダン(2)〜 『ガウーチョ』

 

 

『ガウーチョ』でぼくが強い引力を感じるのは、1曲目「バビロン・シスターズ」、4「ガウーチョ」、6「マイ・ライヴァル」、7「サード・ワールド・マン」だけど、ジュヴナイル・ノルタルジーのサウンドトラックみたいな面は、むしろそれら以外の曲にあるように思う。がまあでも書いた四曲はマジすごくいいなあ。

 

 

アルバム・タイトルにもなっている曲「ガウーチョ」(と「バビロン・シスターズ」)が目玉かな、このアルバムは。前作『エイジャ』がインチキ極東イメージのサウンドトラックだったとすれば、こっちはインチキ中南米かなって思うけど、そんな面も含め、やっぱりこっちのほうか、幕開けの「バビロン・シスターズ」こそ、この作品の白眉だ。

 

 

ニュー・ヨーク出身でありながら西海岸でホーム・シックに苦しみながら音楽生活を送るドナルド・フェイゲンとウォルター・ベッカーという、こんな彼らの自叙伝的性格をも帯びている「バビロン・シスターズ」は、しかしレゲエでもある。たぶん、スティーリー・ダンでレゲエが出てきた初例かなあ。だからインチキ・カリブふうニュアンスをここでも出しているんだね。しかも、フェイゲンが、あの独特のハーモニカ・ライクな音色のシンセサイザーを弾いているのも耳をひく。

 

 

このレゲエとハーモニカ音色のシンセで内心の葛藤を歌うというのは、『ガウーチョ』の(事実上の)次作であるフェイゲンのソロ作『ザ・ナイトフライ』1曲目「I.G.Y.」を先取りしたものだ。「I.G,Y.」のほうには西海岸で暮らすストレスを歌った歌詞なんかは織り込まれていないが、サウンドとリズム構築手法はほぼ同じ。うん、大好きだ「バビロン・シスターズ」(と「I.G.Y.」)。

 

 

この当時ライヴ活動を行なっていなかったフェイゲン自身、それを1993年に再開するにあたり「バビロン・シスターズ」の生演奏再現に眼目を置いたと伝えられているくらいなんで、やはりこの音楽家のなかでもスペシャルな一曲だったんだろうと思う。軽く薄いレゲエのリズム・ニュアンスは、このジャマイカ音楽の持つ(過剰な?)ヘヴィさ、シリアスさを剥ぎとり、音楽をポップで軽く親しみやすいものとする一助だ。

 

 

アルバム6曲目「マイ・ライヴァル」が好きなのは、ポップなリズム&ブルーズ/ファンクっぽい一曲だから。特に、だれが弾いているのか冒頭からミュート気味のエレキ・ギターがシングル・ノートでショート・パッセージを反復しているのがとてもいい。ティンバレスの入りかたも効果的。ここでもちょっぴりだけ中南米のニセの香りが漂う。

 

 

ラストの「サード・ワールド・マン」。これもラテン・バラードっぽいニュアンスがある一曲で、とても強い哀愁が漂っているあたりの曲想もそうだ。ラリー・カールトンが弾いているらしいエレキ・ギター・ソロが(ぼくには)強い魅力を放っているが、しかしもともと『エイジャ』録音セッションのときに録ってあったものらしい。だからこのちょっとの唐突感があるのかな。でもそれがかなりいい感じだよね。

 

 

また、ここまで書いたうち、「ガウーチョ」と「サード・ワールド・マン」はドラマティックに展開し、前作『エイジャ』のタイトル曲同様、大きなスケール感もあるのがとても好きだ。激しくエモーショナルに大きく展開した次の瞬間に、パッと現実に連れ戻されるような感覚があるのもおもしろい。

 

 

「ヘイ・ナインティーン」「タイム・アウト・オヴ・マインド」みたいなコンパクトにまとまった短編小説的なシティ・ポップスも楽しくて、しかも三名の生活と青春回顧のサウンドトラックとしては、むしろこういったショート・ストーリーズの積み重ねがスケールの大きな傑作曲よりもモノを言うし、やっぱり『ガウーチョ』もかなりいいね。

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