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2019/01/14

あなたはいずこ?(4分19秒の宝石)

 

 

聴いてほしい、このクリスチャン・マクブライド(ジャズ・ベーシスト)のアルバム『カインド・オヴ・ブラウン』ラストの「ウェア・アー・ユー?」を。なんて美しいことか。こんなにも美しいジャズ・ベース演奏、特に弓弾きでのそれは聴いたことがない。あぁ、美しい…。

 

 

クリスチャン・マクブライドの『カインド・オヴ・ブラウン』(2009)というアルバムは、全体的にはどうってことない凡庸な一枚だ。退屈だと言ってしまってもいいくらい。「ウェア・アー・ユー?」を除いては。ぼくとマクブライドとの出会いのこと(トーニックでのライヴ盤三枚組)や、このベース奏者の非凡さをどう考えているかなど、諸々、今日はいっさい省略。「ウェア・アー・ユー?」の、この世のものとは思えない美しさに酔えば、それでいいのではないだろうか?

 

 

クリスチャン・マクブライドの「ウェア・アー・ユー?」はピアノ(エリック・リード)とのデュオ演奏。曲はジミー・マクヒュー&ハロルド・アダムスンの手になるもので、1937年の映画挿入歌。その後多くの音楽家がやってスタンダード・ソング化している。アリーサ・フランクリンの、それからなんとボブ・ディランの、ヴァージョンもあるんだよ。

 

 

曲題で察せられるとおり、好きな相手が自分のもとを去っていってしまい、あなたはいまどこにいるのですか?わたしをおいてひとりぼっちにしてどこへ行ってしまったのですか?と悲痛な嘆きを歌ったもの。という歌詞なんだけど、メロディの動きはひたすら美しく、失くしてしまった愛を、いまだ傷癒えぬとはいえ、きれいな想い出に昇華しつつあるような、そんな旋律だよね。っていうかね、こんな端正なメロディだからこそ、この失恋の痛みがいっそう強く聴き手に沁みてくるのかもしれない。

 

 

クリスチャン・マクブライドのヴァージョンはかなりテンポを落とし、リリカルすぎるピアノ・イントロに続きマクブライドが弓弾きで入ってきた瞬間、その音色のあまりの美しさに涙がこぼれそうになってしまう。ロスト・ラヴ・ソングだという歌詞のこの内容をこれ以上ない耽美さで表現できているアルコ弾きサウンドじゃないかな。

 

 

3:15〜3:18 において、音をぐいぐい折り重ねるあたりで、ぼくは感極まってしまって、いまだになんかい聴いても涙腺がウルウルってなっちゃうんだよね。しかもその折り重なった次の瞬間にサッと転調しちゃうもんだから、もうダメだ涙腺崩壊。こんな展開、ずるいよ〜。あまりにもきれいすぎる。弓弾きでここまできれいに聴こえるっていうのは、クリスチャン・マクブライドの最高級の技巧ゆえだけどね。特に音程が正確きわまりない。コントラバスではむずかしいんだ。

 

 

クリスチャン・マクブライドの「ウェア・アー・ユー?」。一曲をとおし、伴奏のピアニストも主役ベーシストも、この失愛の歌を、ひたすらていねいにていねいに、やさしくやさしく、そっとそっと撫でるように、そんな心持ちで、まるで大切なものを両手で胸にそっと抱え持つように、心をくだいて演奏しているなとわかるので、とってもいいよねえ。

 

 

いやあ、こんなにも美しいジャズ・べース演奏は、ぼくは、聴いたことがないよ。この「あなたはいずこ?」、折に触れて聴いて、感嘆のためいきをもらしている。

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