ジャジューカの神秘
昨日のオーネットからの流れで思い出したので軽くメモしておこう。2017年に来日公演もやったモロッコのマスター・ミュージシャンズ・オヴ・ジュジューカ。来日前の2016年9月14日にフランスはパリのサントル・ポンピドーでやったライヴ録音盤があるよね。タイトルは『ライヴ・イン・パリ』。これは来日記念盤ということなのかな、そんな文言が裏ジャケットに書かれている。
実を言うと、ぼくは(ローリング・ストーンズの)ブライアン・ジョーンズが関係した例のアルバムは、いまだ一度も聴いたことがないんだ。買ったことがないし、聴かせてもらったこともない。というままずっと来ているのもアカンのかと思ったりして、2018年暮れになってようやく Spotify にあったからチラッと聴くには聴いた。エル・スールで買った『ライヴ・イン・パリ』とそんな大差ないような気がする。
だから、これはジャジューカで連綿と受け継がれている民俗音楽だから、数十年程度では変容しないということかもしれない。グナーワにせよなんにせよ、こういったたぐいの民俗音楽ってだいたいそうじゃんね。日本の民謡だって、むかしからそんな変わってないでしょ。それだから時代に即していないとか云々は、また違う次元の話だと思うんだよね。ポップ・ミュージックじゃないんだし、当たっていない指摘だろう。
ブライアン・ジョーンズ関連の例の1971年の一枚で、それでたぶん欧米や世界でひろく知られるようになったのかもしれないジャジューカの音楽だけど、その『ブライアン・ジョーンズ・プリゼンツ・ザ・パイプス・オヴ・パン・アット・ジャジューカ』と、『ライヴ・イン・パリ』とでは、しかしかなりの違いもある。ブライアンのは以下。
太鼓と笛が中心になっているのは同じなんだけど、『ライヴ・イン・パリ』ではケマンチェ(?)みたいな擦弦楽器の音が聴こえるトラックがある。ジャケット裏にある Kamanja っていうのがそれかな、たぶん。それからヴォーカルも大きくフィーチャーされていて、リーダー格の独唱+バック・コーラス(はぜんぶユニゾン)でかなりたくさん歌っているコール&レスポンス。
さらにここがいちばん違っているなと思うのはリズムだ。太鼓が叩き出すそれはもちろん違うがそれだけじゃない。笛も擦弦も表現しているリズムがかなり違うのだ。ブライアン・ジョーンズのやつではおとなしく漂っているかのようなもので、はっきり言って魅力がやや薄いと思うんだけど、『ライヴ・イン・パリ』のほうではかなり激しい躍動的なビートを生み出している。激しいも激しい、これは演奏者もリスナーも興奮のるつぼにおとしいれ、異次元に誘うがごときトランス・ミュージックにほかならない。
太鼓も笛も擦弦も、ほぼ同一のパターンを延々と反復しながらちょっとづつニュアンスを変えていくんだけど、そのミニマルな展開が陶酔を誘う。擦弦はたぶん一台だけだと思うんだけど、太鼓と笛はそれぞれ大人数で、それも西洋音楽のように整然と合ってはおらず、微妙にというかずいぶんズレて重なっていることで、音に幅とひろがりと濁りみが生まれ、それの多重反復で聴いているほうはめまいを起こしそうな快感をおぼえる。
こういった音楽が、4000年だか受け継がれてきているんでしょ〜、すごいなあモロッコのジャジューカ。1970年代以後、ジャジューカやモロッコ外にもかなり紹介されてきている音楽だけど、たぶんほぼ変容せず姿を変えずにずっと維持できているんだろう。いまの時代だとなかなかむずかしいことだと思うんだけど、パリのサントル・ポンピドーでライヴやったりするくらいだし…、とかって思っちゃう。世界に紹介されているんだしね。
世界にさらされつつひろがって、しかも同時にモロッコはジャジューカの共同体内のあったのと同じ閉じたまま変容せず、そのままの音楽性を維持できているっていう、変わらないままで、しかも多くの世代を超えて支持され続けているっていう、そんな民俗伝統に根ざした音楽が、現代はたしてどれくらいあるのだろうか?この点でも、あるいは音楽を CD で聴くだけでも、ミステリアスだ。
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