オーネット『ダンシング・イン・ユア・ヘッド』
電気楽器を使うようになってからのオーネット・コールマンの作品でいちばん好きなのが1977年の『ダンシング・イン・ユア・ヘッド』と78年の『ボディ・メタ』。それからあんがい88年の『ヴァージン・ビューティ』がかなり好きだけど、これは以前書いた。電化前だとゴールデン・サークルのライヴかな。いや、そのへんはまだちゃんとふりかえっていない。
『ダンシング・イン・ユア・ヘッド』。オーネットが電気楽器を大胆に使いファンク路線をとり、のちにバンドがプライム・タイムと呼ばれるようになる、その最初らへんの一枚だったよね。ドラムスがすでにシャノン・ジャクスンだ。+エレキ・ギター二本とエレベ&オーネットのアルト・サックスで、「シーム・フロム・ア・シンフォニー」の2トラックをやっている。3トラック目は73年にモロッコはジャジューカで現地ミュージシャンたちといっしょにライヴ録音したもの。
1、2トラック目と3トラック目はかなり性格が異なっているので分けて考えたほうがいいのかもしれないが、しかしバックの音楽はかなり違うものの、オーネットのアルト・サックス演奏にかんしてはさほどの差異がないかも?と思えたりする。よく聴いたらバックのリズムとサウンドだって共通性があるような…。それを言ったら1950年代末のデビュー時から一貫してオーネット個人のサックス演奏はあまり変化していないのかもしれないが…、う〜ん、いや違うか、どうなんだろう?
ふたつある「シーム・フロム・ア・シンフォニー」。オーネットとギターがテーマというかショート・パッセージを延々と繰り返し反復演奏しているが、その背後でのバンドのリズムはまだまだそんなにタイトじゃない。がしかし、おどけるような感覚があるのがいいね。ユーモア感覚っていうかさ、バンドのリズムにもオーネットのアルト演奏にも生得的な?そういった要素を感じとることができる。
オーネットの音楽でいちばん好きなのはここで、あまりしかめ面してシリアスになりすぎない、できあがった録音作品だけ聴いているかぎりではユーモラスだというかファンキーにふざけているような、そんなフィーリングがあるところなんだよね。アルト・ソロの内容だって自然発生的にそんな要素を表現しているなと感じるけれど、ぼくの感覚がおかしいのかなあ。
ダブル・カルテットによる『フリー・ジャズ』(1961)だって、わりとシリアスにだけ受け止められている作品な気がするけれど、特に合奏部分なんかにファンキーな愉快さがあるし、それから(どんな作品でも)特にオーネットのアルト演奏部はかなりエモーショナルで生々しく、かと思うと湿ってなくてカラリと乾いているし、ユーモア感覚って一歩引いて自己を客観視してクールに突き放していないと出せないと思うけれど、オーネットにもそういった部分があるかも。
いちおうは電化ジャズ・ファンクになっている「シーム・フロム・ア・シンフォニー」2トラックに続く3トラック目「ミッドナイト・サンライズ」は、モロッコのマスター・ミュージシャンズ・オヴ・ジュジューカ(Joujouka との記載)との共演。ジャジューカの音楽家の演奏は例によって打楽器と笛によるミニマル・ミュージックだけど、その上をオーネットが自在に駆けまわるといった雰囲気。たったの五分未満と、ジャジューカの音楽としては物足りない長さかもしれないが、1973年当時ここまでできたアメリカ人ジャズ奏者は、たぶんオーネットだけだったろう。自由なジャズ(フリー・ジャズ)とはまさにこのことだ。
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