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2019/01/19

ハバナのチャネー(ガリシア出身)

 

 

ジャケットに描かれている人物がチャネーことホセ・カストロ・ゴンサーレス(1856〜1917)だ。スペイン北東部ガリシア出身の音楽家で、キューバに渡り活躍、主に作曲家としての功績が大きいと言えるはず。いわゆる国民楽派っていうか、マヌエル・デ・ファリャ(スペイン)、エルネスト・レクオーナ(キューバ)、ルイス・モロー・ゴットシャルク(ニュー・オーリンズ)といった、ラテン/アメリカ音楽世界で、その19世紀末〜20世紀初頭ごろに出現した1グループに分類できるかも。

 

 

2017年はそんなチャネーのハバナでの没後100周年に当たるので、たぶんそれで企画されたのが、今日話題にしたい音楽アルバム『アバーナのチャネー』(Chané na Habana) だね。主役はチャネーのすばらしい曲の数々だけど、演奏しているのは、中心がキューバ出身のピアニスト、アレハンドロ・バルガスとその六人編成バンド。さらにカメラータ・エヘリアという弦楽隊が付き、女性歌手ローサ・セドロンがヴォーカルを担当している。

 

 

『アバーナのチャネー』は、2017年7月30/31日に、ガリシアのオーディトリアムでライヴ録音されたもので、しかしライヴ感はまったくと言っていいほどない。拍手や歓声は100%カットされているようだし、音響もライヴ・ホールのものじゃないような感じだ。また生演唱ならではのほころびもなく、でもこれは事前の準備に時間をかけたということだろう。

 

 

それから、なんたってこのアルバム『アバーナのチャネー』パッケージは豪華。音楽 CD は一枚なんだけど、それがていねいな薄緑色の草模様をあしらったケースに入り、西英二語によるブックレットは分厚くゴージャスで詳細(ページ数は打たれていない)。それらが、まるでキューバ特産の葉巻ケースを模したようなハード・ボックスにおさめられている。瀟洒な感じもあるが、それはまるでチャネーの音楽をそのままパッケージでも再現したかのよう。

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以下、演唱家たちのその内容というよりもチャネーの曲の内容に主に絞って、ぼくの好みな部分だけ、感想をちょこっとメモしておきたい。いや、でもホントこの『アバーナのチャネー』は一回目に聴いた第一印象が極上で、質のいいシルクの布をまとっているかのような肌ざわり。聴き込むうち徐々にイマイチかも?と思える部分も出てきたが、全体的にすばらしい内容であるのは間違いない。

 

 

ガリシアの民俗音楽にヒントを得てチャネーが書いたものも好きだけど、個人的にはキューバ音楽要素が気になるし、それこそ大好きだ。音階は必ずしもスペイン音階と限らないのがやはりガリシア出身のコンポーザーらしいところか。それでも随所にそれっぽい旋律は聴ける。でも、やっぱりリズムだなあ、ぼくには。

 

 

たとえば1曲目「A Foliada」もアフロ・キューバ系のビートを(軽く)持っているが、ローサの歌が出るとそれがいったん落ち着いている。しかし歌の後半部分でパッと変化して、リズムが快活なカリブ系のそれになってからは、弦楽のリリカルな響きもあいまって、とても見事な雰囲気だ。めくるめくようなメロディの動きも実にいい。

 

 

2曲目「Gaiteiriño Pasa」はボレーロ/モルナとされているが、これも含め、これ以後アルバムにあるボレーロ楽曲はどれも大好きだ。それはアバネーラ楽曲とも密接な関連がありそう。キューバにおけるアバネーラやボレーロの登場をいつごろと見るのかなかなかむずかしいが、チャネーのキューバ到着は1894年1月だから、どっちもすでにしっかりあったと見て間違いない。

 

 

チャネーは、そんなキューバ音楽要素を、渡玖前に、スペイン人作曲家がアダプトしたものからも学んでいたかもしれない。いずれにせよ、チャネーのボレーロ/アバネーラに聴ける優雅で典雅なムードはとてもすばらしい。3曲目「Os Teus Ollos」もボレーロだが、ぼくが(フィーリンにもつながっていくものとして)知っているキューバン・ボレーロほどリズムの8ビートなちゃかちゃか感はない。もっとゆったりゆるやか。

 

 

10曲目「Un Adiós A Mariquiña」でも同じ印象がある。これはボレーロ/コンゴとされている。コンゴっていうのは(音楽としての)コンガのことかなあ?そんな快活なリズムにも聴こえないから、別のなにかかもしれない…、と思って聴いていると、やはり後半部でにぎやかになってくる。がまあでも、全体的にとてもしっとりやわらかいソフトなフェザー・タッチだ。

 

 

そう、いま書いたことと、上でもちょこっと触れたけれど、ちょっとフィーリンっぽいんだよね、チャネーのボレーロは。これは演奏やローサのスムースな歌唱のおかげもあるのか、ちょっとわからないが、個人的印象としてはチャネーの楽曲そのものにフィーリンになりうる要素が宿っていたに違いないと思う。バラーダ(バラード)とされている4曲目「Luisa」にしても、アフロとなっている6曲目「Alalá」にしても、そう。フィーリンっぽいよ。

 

 

ところでこの「アララー」という曲はとってもいいね。アルバム『アバーナのチャネー』の全曲のなかで最大の好物かもしれない。あ、いや、あるいはアルバム・ラストの12曲目、アバネーラと記されている「Balada Inédita」かもなあ。ふたつとも大好物。「アララー」と「バラーダ・イネーディタ」は、どっちもガリシアのトラッド・フォークからモチーフを得たものだそうで、でもリズムはこれ、キューバのものだよなあ。ガリシア+キューバの合体美ってことか。すばらしい。

 

 

陽気で激しいビート・ナンバーも聴き逃せない。たとえば7曲目「Primeira Perda」(グアヒーラ)、8「Cantiga」(チャチャチャ)、9「Tangaraños」(コンガ・サンティアグエーラ)、そして11「Soledades」(メレンゲ)あたり。

 

 

どれもいいけれど、ぼくにとってすごく楽しいのが11「ソレダーデス」。こんな曲題だけどさびしさやわびしさはなく、これはほぼサルサ・ミュージックの先取り、100年近く前にそれを予告したかのようなワン・トラックなのだ。だから好き!ピアノの弾きかたにしてもまるでエディ・パルミエーリみたいだし、リズム・セクションのビート感にしてもそう。ティンバレスでも入っていれば完璧だったが、そこまでは望むべくもない。がしかし、しっかりキューバ発祥で花開いたものが聴こえているよ。

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