ナターリア・ラフォルカデの汎ラテン・アメリカン古謡、こっちが一作目
ナターリア・ラフォルカデによるラテン・アメリカン古謡シリーズ『ムサス』のファンなんですけど、ぼくは。最初に聴いた2018年リリースの二作目の印象がとてもよかったんだよね。それで、その前の一作目(2017)も渋谷エル・スールで買って聴いたわけ。もともと評価が高かったのはこっちだし。そうしたら、これもなかなかすばらしい。まあナターリアの声は、なんちゅ〜かその〜、アイドル・ヴォイスかもしれませんが、ぼくなんかは抵抗ないよ。
正式題は『MUSAS: Un Homenaje al Folclore Latinoamericano en Manos de Los Macorinos』と長すぎるので、みんな『ムサス』と呼んでいるこの二枚シリーズ。2018年リリースの Vol. 2については以前書いたのでご一読いただきたいと思います。今日はさかのぼって一作目のことだけ。といってもアルバム・コンセプトは同じで、内容もかなりな部分完璧に同一といってさしつかえないものだけどね。
もちろん違いはある。『ムサス』一作目は、汎ラテン・アメリカンというより、メキシコとキューバ二ヶ国の古謡(か、それに似せた自作&共作も多し)にほぼフォーカスがしぼられている。キューバとメキシコが、特に音楽の世界で、それもキューバ革命までは、かなり密接な関係にあったことはご存知のとおり。そこにアメリカ合衆国も深くからんでいる。『ムサス』Vol. 1だと、ナターリアも、特にメキシコという自身の土地のルーツに目を向けていたということかな。
それで、以前、ライ・クーダーをフィーチャーしてチーフタンズがやったメキシカン・フォークロア・アルバムのことを書いたでしょ。『サン・パトリシオ』だっけな。たしか2010年作。あれは米墨戦争に題材をとったものだからああなっていた。ナターリアの『ムサス』Vol. 1をご存知ないかたも、だいたいあの『サン・パトリシオ』を想像していただければ、遠くないと思う。
『ムサス』Vol. 1で最も有名な曲は、たぶん9曲目「Tú Me Acostumbraste」だね。かのフランク・ドミンゲスが書いたもので、ナターリアはオマーラ・ポルトゥオンドを迎えデュエットで歌っている。やはりちょっとフィーリンっぽい仕上がりに聴こえるのはオマーラのおかげか、曲がもともとそういった傾向のものだからか。ナターリアの声はでもそんなにクールさを感じないものだけど。
このへんは、もちろんオマーラとナターリアが歌手として器が違いすぎるからっていうのもあるよね。年季が入って枯れたクールな味わいに到達しているオマーラはやはりさすがだ。しかもドライになりすぎない情緒をしっかり残してある。ナターリアも、でもかなり健闘はしているよねえ。オマーラと並ぶと分が悪いけれど、落ち着いたフィーリングで淡々と、ほかの曲でもこなしている。
それから『ムサス』Vol. 1におけるナターリア最大の功績と思うのがソング・ライティングだ。自作、あるいはほかの作者との共作でナターリアがたくさん書いているが、上でも触れたフランク・ドミンゲスそのほかの曲群と並んでも違和感ないもんね。アルバムでは主に前半部が自作セクションみたいになっている。
そこでは、たとえば1、5、6曲目がナターリアひとりでの自作、2、3が共作で、(主に)メキシカン・フォークロアの世界を見事に再現している。それらを聴き、アルバム後半の有名他作曲セクションへスムースに流れていくのを聴いていると、なかなかすごいな、ナターリア、かなり勉強したんだなと痛感する。しかも1曲目にはレゲエのニュアンスだってあるもんさあ。
プロデュースも全面的にナターリアがひとりでやっている(とのクレジットだけど、共演のロス・マコリーノスが手を貸しているはず)ところからしても、アルバム全体でラテン・アメリカン古謡の陰と陽を交互に並べ陰影をつけていく選曲や並び順といったところからしても、しっとりとした歌いこなしやアレンジ、そしてなによりアイドル歌謡(?)の世界からここまで深い部分まで掘り下げる野心や心意気などからしても、ナターリア・ラフォルカデには感心しきりなぼく。かわいいし。
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