このころのオーネットは、ジャズ界のキャプテン・ビーフハート
そういえば『ダンシング・イン・ユア・ヘッド』のときに書き忘れたけれど、キャプテン・ビーフハート。彼の音楽と、このころのオーネット・コールマンのそれは相通ずるものがあるんじゃないだろうか。ただ、ぼくの感覚だとオーネットのほうがとっつきやすくわかりやすく親しみやすい。ビーフハートも好きだけけどオーネットのほうがもっと、っていうのはジャズ・ファンだからかなあ、どうなんだろう?
それで、このころに発売されたオーネットのアルバムでは、個人的に『ダンシング・イン・ユア・ヘッド』より『ボディ・メタ』(1978)のほうが好き。本当に好きだ。作品としての出来云々はよくわからないけれど、とにかく好物なんだよね。それに、以前から書いている個人的愛聴盤『ヴァージン・ビューティ』の明快さにつながるものがもうすでに出てきていると感じられるのもいい。
『ヴァージン・ビューティ』(や、その前の『オヴ・ヒューマン・フィーリングズ』)へと続いていくものとは、リズムがシャープでタイトになっている部分。それでファンキーになっている。いま書いたファンキーには愉快さ、滑稽さという意味だけでなく、いわゆるファンク・ミュージック的なタイトなノリ、グルーヴという面もあるんだよね。それをぼくは『ボディ・メタ』に感じとっている。ジャズ界でも1978年リリースというとファンク方面へのアプローチはかなり遅いほうだったと思うけどね。
まず1曲目「ヴォイス・ポエトリー」が3・2クラーベのパターンだもんね。別称ボ・ディドリー・ビート。オーネットのばあいはロック方面というよりニュー・オーリンズやラテン音楽方面から直接引っ張ってきているような気がするが、二名のギタリストを聴くとロックもあった?と思える。曲「ヴォイス・ポエトリー」(といった曲題のつけかたはイマイチ)ではバンドのクラーベ・リズムに乗ってひたすらオーネットがブロウしているが、かなりクールなんだよね。だからブロウということばが似合わない。
2曲目以後は、バンドのリズムがどうもまだ『ダンシング・イン・ユア・ヘッド』のあたりと同じ傾向で、タイトさに欠ける点はイマイチ。しかしキャプテン・ビーフハートの音楽との共通性はよりわかりやすくなっているから、その意味ではとっつきやすいと感じるリスナーのみなさんもいらっしゃるはず。オーネットのアルト・サックスが<声>で、背後でフリーに二本のエレキ・ギターがフラグメンタリーにからみあい、ベースもドラムスも決して合わせないように同時並行で進んでいる。
和声的にも、オーネット含め全員が<合わせないように>と腐心してやっているなあとわかったりもして、ここまでアトーナルじゃなくちゃならないと強く意識するならばそれはフリー(・ジャズ)じゃないと思うこともある。自由って、局面局面で合わせても合わせなくても好きなようにやればいい、ってことなんだから、こうやらなくっちゃ!と決め込んだらフリー・ミュージックじゃない。
この点だけが(オーネットだけじゃなく)一部のジャズ・ミュージシャンにぼくが持っている違和感。でもここだけを無視すればやはり楽しい。それに、『ボディ・メタ』ではリズムが明快なタイトさ、ファンクネスを獲得しつつあるしね。決して合わせないようにやってタイトなファンクネスに至るって、考えてみたらすごいことだ。ふつう相反することだもんねえ。
アルバム4曲目「フォ・アムール」はきれいなバラードっぽいもので、ちょうど『ヴァージン・ビューティ』にあった「アンノウン・アーティスト」を連想させるアルト演奏。オーネットのサックス・サウンドが本当に美しいし、セクシーだ。以前から書いているが、オーネットの音ってマジきれい。で、湿っているのか乾いているのかわからない。熱いのか醒めているのか、判断がつかないね。でも、マジ、きれいだ。その音色の生々しさだけにだって聴き惚れる。
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