カッコイイなあ、エルヴィス『オン・ステージ』
超カッコいいエルヴィス・プレスリーのライヴ・アルバム『オン・ステージ』(1970、RCA)。しかしこれ、エルヴィスの名がジャケットのどこにもないよね。1970年だとそれほどのイコンと化していたってことだね。いまぼくが持っていて聴いているのは1999年リリースの拡大盤で、全16曲。しかし上でリンクを貼った Spotify のはオリジナルどおりの10曲でたったの30分間。 内容がいいから、いくらなんでも短すぎるんじゃないかと思うんだけど。でも疾風のように吹き去って、それもいい。
拡大盤のトラックリストは以下のとおり。
01. See See Rider
02. Release Me
03. Sweet Caroline
04. Runaway
05. The Wonder Of You
06. Polk Salad Annie
07. Yesterday / Hey Jude
08. Proud Mary
09. Walk A Mile In My Shoes
10. In The Ghetto
11. Don't Cry Daddy
12. Kentucky Rain
13. I Can't Stop Loving You
14. Suspicious Minds
15. Long Tall Sally
16. Let It Be Me
ぼくにとってのエルヴィス『オン・ステージ』は、まず一発目の「シー・シー・ライダー」(伝承ブルーズ)で爽快かつ軽快にかっ飛ばすクールさにやられてしまうっていうのが正直なところ。それから6曲目の「ポーク・サラッド・アニー」(トニー・ジョー・ワイト)だなあ。ふたつともカッコよすぎる。ロックはレベル・ミュージックだなんて勘違いしている向きには、このへんの時期のこんなエルヴィスは絶対に受け入れられないだろうなあ。わっはっは。
1970年のオリジナル・リリースのレコード10曲だと、当時エルヴィスのイメージがついていない曲ばかり収録したという側面もあったようだ。Spotify にあるやつで追体験してほしい。ぼくもそうしている。現行の拡大盤 CD だと「イン・ザ・ゲトー」「ケンタッキー・レイン」「サスピシャス・マインド」などもあるので、この印象は弱くなっている。だから1970年のレコード発売時の会社の目論見はややわかりにくくなっているかも。
それでも、チョ〜カッコいいと思う「シー・シー・ライダー」「ポーク・サラッド・アニー」(やっぱりこの二曲がぼく的には『オン・ステージ』の白眉)なんかはやはり新鮮。後者はコンテンポラリー・ソングだったけど、前者の伝承ブルーズ・ソングはだれの提案・選曲だったんだろう?ホ〜ント古い歌なんだよね。レコードでの初演は1924年の女性歌手マ・レイニー。以前、記事にしたことがある。
つまり、自分のパートナーの浮気癖で悩み悶々とし問い詰め嘆き苦しむという歌なのに、『オン・ステージ』幕開けのエルヴィス・ヴァージョンの爽快さったらないね。ホント選曲者を知りたいが、アレンジャーがだれだったのかはもっと知りたいぞ。バンドの演奏もいいが、もっといいのがエルヴィスのさっぱりした歌い口だ。どこにも浮気性な女を問い詰める苦悶なんか感じられない、爽やかロックンロールだ。こうしたガラリの変貌も、音楽のおもしろさだね。
アダプト、アレンジがいいっていうのは『オン・ステージ』全体について言えること。エルヴィス本人がどこまでこのラス・ヴェガスでのショウの構成にかかわっていたのかわからないが、想像するに音楽監督みたいな役割の人物がいたに違いない。ショウのプロデューサーってことかな。それで、それまでエルヴィスが録音したことのない、エルヴィス色のついていない曲を選ぶことになったのだろう。それをこんなふうにやってみようとアレンジ&プロデュースした人間の実力がかなり高かったんだと思う。
しかしエルヴィスはたんに上に乗っかっているだけの人形なんかじゃない。それまで自身が歌い込んだことのない数々の曲を、『オン・ステージ』を聴けばあたかもむかしからのおなじみレパートリーであるかのように楽々、軽々と(と聴こえるのがすごい)歌いこなしているじゃないか。凡百の歌手には不可能なことなんだよ。
つまり、裏方で音楽をプロデュースする人間の力、フロントに立つスター歌手の実力、そしてひるがえって曲そのものの魅力、それを書いたソングライターの真価までも、手に取るようにわかってしまう 〜 それがエルヴィスの『オン・ステージ』なんだよね。いやあ、すばらしいアルバムじゃないだろうか。たんに一発目の「シー・シー・ライダー」があまりにカッコよくて快感なだけでぼくはハマった一枚だけど、考えてみればすごいことをみんなやっている。
ラス・ヴェガスなんかでやっているこういった種類の音楽エンターテイメント・ショウのことは、わりかし鼻で笑ってバカにしているシリアスな音楽リスナーが多そうな気がしているけれど、とんでもない話だよ。(当時の)現役トップ・プロたちの一流のエンターテイメントは、最高におもしろく楽しくすばらしい。
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