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2019/02/14

パリのブラウニー(2)〜 あんがいビックス的な

 

 

(『ザ・コンプリート・パリ・セッションズ Vol. 2』をネットで探すと、マスター・テイクしか見つからないです)

 

 

ところで、ジジ・グライスのやわらかいアルト・サックス・サウンドって、クリフォード・ブラウンのトランペット・サウンドとの相性がとてもいいと思う。ブラウニーらのパリ・セッションのお膳立てをしたのは、ライオネル・ハンプトン楽団の公演で彼の輝かしいトランペット・サウンドに感動したアンリ・ルノーだったとのこと。アンリはセッションにも参加し活躍しているが、ジジをくわえたのは大正解だった。音楽監督役をお願いしたということもあったろうけれど。

 

 

そんなことが『Vol. 2』の大半を占めるセクステット録音でもよくわかる。「マイノリティ」でも「サルート・トゥ・ザ・バンド・ボックス」でも、ブラウニー&ジジ・グライスの二管の響きがとてもいい(六人なのはリズム隊が四人なため)。テーマ演奏部のアンサンブルはどうってことない気がするが、ソロ・パートになり、まずジジが出て、二番手でブラウニーが出た瞬間に世界が輝きはじめるのだった。むろん、ジジのソロだっていいよ。

 

 

1953年10月の録音だけど、ブラウニーはすでに文句の付けどころがぜんぜんない。完璧に完成されている。唇や舌を使う技巧にしてもそうだし、音色だってブリリアント、そしてフレイジングはどの曲のソロでも歌心満点で、しかも、前日も書いたようによどみない。スラスラと、あまりになめらかすぎると嘆きたくなるほどスムースかつ自然にソロ・フレーズが組み立てられている。しかも微細な部分までデリケートに神経が行き届いている。

 

 

ここまでのジャズ・トランペッターが史上ほかにいたのか?と問われれば、たったひとり、1920年代後半のサッチモ(ルイ・アームストロング)がその上を行っていた。こっちのほうはいまやほとんどだれも言わなくなってしまったので、声を大にして再度強調しておきたい。1925〜28年のサッチモを超えうるジャズ・トランペッターなど、出現しえない。

 

 

それはいい。パリのブラウニー。『Vol. 2』では、たとえば「マイノリティ」なんかもかなりいいよね。これは曲がいい。というか特にコード進行の流れと、イントロ部のリズムが魅力的。イントロ分でラテン・リズムが使ってあるのは、ブラウニーの初録音、1952年、クリス・パウエル楽団での二曲を思い出すようなところ。でもパリでの「マイノリティ」ではイントロが終わってテーマ演奏部になると4/4拍子になってしまう。

 

 

ところがそうなったら今度は中近東音楽ふうなトーナリティを感じるようなコードとメロディ展開で、それはソロ部において必ずしも活用されていないが、なかなかおもしろいんじゃないだろうか。ジジとブラウニーのソロもよく聴かせる見事なものだ。三つのテイクがあるんだけど、全体的にはやっぱりマスター・テイクがいいかなという気がする。ブラウニーのソロだけに絞ればテイク2のほうがいいかも。

 

 

「サルート・トゥ・ザ・バンド・ボックス」のテーマ演奏部ではジジのアレンジもかなりいい。ブラウニーのソロにはやはりケチの付けどころもまったくなし。「ストリクトリー・ロマンティック」のようなラヴ・バラードふうのもの、やはり急速調の「ベイビー」なんかでもスーパーだ。また、この二曲ではテーマ演奏部におきブラウニーとジジが、二管アンサンブルではなく、からみあいながら進むあたりのアレンジも楽しい。こういうのを聴くと、最初に書いたようにこの二名の音色はよく混ざり合う相性のよさがあるなあと実感する。

 

 

オーケストラでの二曲「クイック・ステップ」「バムズ・ラッシュ」と、ジャム・セッションの「ノー・スタート、ノー、エンド」のことは、具体的には省略するけれど、ここでも聴けるブラウニーのトランペットの味は、ある意味、ビックス・バイダーベック的でもあるなと思うんだよね。音色の面では似ていない(ブラウニーもやはりサッチモ系のマチスモ)が、フレイジングの組み立てや、それからパキパキポキポキっていう、このなんともいえないアタック音、それがビックス(系コルネット奏者)にとてもよく似ている。

 

 

つまりは、ブラウニーって、ジャズ・トランペット界の先輩偉人たちのいいとこ取りだったなあって思うんだ。究極の完成形っていうかね。そんなところも、パリ・セッション二枚目でわかる。

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