ルンバへようこそ 〜 パリ篇(2)
この二枚組 CD アルバム『ルンバの神話(パリ篇)』のジャケット写真になっているのがレクオーナ・キューバン・ボーイズ(Orquesta Lecuona Cuban Boys)。といってもヨーロッパ時代の大半はエルネスト・レクオーナと関係なし。その後もずっとそうだった。もちろんエルネストがかかわってキューバで結成されたオーケストラなんだけど、渡欧中の1933年末か34年頭に、このリーダーたるコンポーザー&ピアニストは病気でキューバ本国に帰ってしまった。その後のレクオーナ・キューバン・ボーイズのヨーロッパでの公演、録音活動にエルネストはいない。レパートリーこそ当初はエルネストの書いたものをやっていたようだけど、それもそのうちメンバー作曲のものが中心になる。
そんなわけで『ルンバの神話(パリ篇)』ディスク2収録の音源(1934〜37)にエルネストはぜんぜんいないわけなのだ。ちょっとややこしい。エスネストのいないパリでのレクオーナ・キューバン・ボーイズの統率者はアルマンド・オレフィチェ(ピアノ)。アレンジはオレフィチェかエルネスト・ハルーコ・バスケス(ギター)が書いたようだ。
『ルンバの神話(パリ篇)』ディスク2には、エルネストが書いた最大の名曲「シボネイ」や、また「タブー」「マリア・ラ・オー」「ラ・パローマ」といった超有名曲も収録されている。それら以外のルンバもすばらしいばあいが多い。ソンだってある。だけど、ぼくが最も胸ワクワクさせるのは、派手でにぎやかなコンガ(やそれに類するもの)の数々だ。コンガとはこれも楽曲形式のことで、打楽器のコンガのほうはトゥンバドールと呼ぶ。キューバでのカーニバル・コンガみたいなのが、本当に心から好きなんだ。
『ルンバの神話(パリ篇)』ディスク2では、イタリア出身の美声歌手アルベルト・ラバグリアッティが歌う甘いボレーロみたいなものだって、もちろん聴き惚れる。15曲目「クバカナン」、17「アナカオーナ」(かの有名サルサ・ソングとは異曲)なんか、絶品この上ないよねえ。また、パリにおける黒いヴィーナスだったジョセフィン・ベイカー(米セント・ルイス出身)との共演である18、19曲目なんかも、パリジアン・ルンバのハイライトのひとつだ。ジョセフィンは特に存在感がすごい。
それでもしかしぼくはにぎやかコンガやそれっぽいルンバのことが好きなのだ。しょうがない、好みの問題なんだから。それらで歌ったのはアグスティーン・ブルゲーラ(ドラムスも担当)であったばあいが多い。甘い美声のラバグリアッティとは好対照。またこの二名がともに歌って競っているような曲もゾクゾクするね。まあでも今日のぼくの話題はコンガやにぎやかルンバだ。
4曲目に「コンガをお聞き」(Oye la Conga)がまずあるが、これはおよそコンガらしくない、というかコンガじゃないだろう。これじゃなく7曲目「キューバのルンバ・メドレー」(Rumbas Cubanas)がまず最初に来るにぎやかで派手なルンバ・メドレーだ。これはオレフィチェが古い<偽アフロ音楽>としてのルンバをつなげて、しかも1930年代ふうのモダン・コンテンポラリー・ルンバに仕立て上げたワン・トラック。大好き。
9曲目に「ルンバ・タンバ」(Rumba-Tambah)が来る。こ〜れが最高なんだ。これは昨年書いた高橋忠雄さんの『中南米音楽アルバム(改訂版)』に収録されている。といってもそれは田中勝則さんの追加分だったけどね。ティンパニーか、ドラム・セットでいうフロア・タムみたいな音がずっと鳴ってリズムをつくっているが、レクオーナ・キューバン・ボーイズにはドラマーがいるので、やっぱりタムかな。野性的なブルゲーラがすばらしい。レーベルにはルンバ・ネグラ(黒のルンバ)とあり。
続く10曲目「グァヒーラ」は珍しくソンでこれは飛ばし、11「ハバナのコンガ」(Conga de la Havane)。このリズムの快活さは特筆すべき。打楽器群がにぎやかで楽しいったら楽しいな。これはエルネスト・バスケスの書いた曲みたい。思い切りにぎやかで、いいねえ。打楽器コンガ(トゥンバドール)そのほかが大活躍。コンサート・ステージでキューバのカーニバルを模した見せ物があったんだろう。
パリや、あるいはキューバからしてもエキゾティックというか、まあオリエンタリズムだけど、それでも芸能としては楽しい14曲目「モスレム・ルンバ」を経て、16「豚足とモツ」(Patica y Mondonguito)。これまたブルゲーラの独壇場で、楽しにぎやかなアフロクバニスモの体現。ちょっぴりだけサルサを先取りしたみたいなピアノを弾いているのは、曲も書いたモイセース・シモンスのゲスト参加。曲題はソウル・フードだから、まさに黒人系。
ジョセフィン・ベイカー参加のコンガ、19曲目の「ラ・コンガ・ブリコティ」(La Conga Blicoti)や、老いた母と息子の(港での?)別れを歌った、しかしにぎやかで楽しいコンガである22「ヴィーゴへ行く」(Para Vigo Me Voy)などを経て、プエルト・リコの大作曲家ラファエル・エルナンデスが書いた有名曲、24「カチータ」(Cachita)は、コンガというかにぎやか系ルンバなんだけど、珍しくブルゲーラではなくラバグリアッティが歌っている。
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