2019年、いまこの時代に、スティーヴィの「風に吹かれて」〜 ディラン30周年コンサートより
ボブ・ディランのレコード・デビュー30周年を記念して1992年10月16日にニュー・ヨークはマディソン・スクウェア・ガーデンで行われたライヴ・コンサートの収録盤『ザ 30th アニヴァーサリー・コンサート・セレブレイション』。Spotify にはこれしかないのでリンクしたが、ぼくの持つ CD ヴァージョンで聴ける肝心要の部分がすっぽりカットされている。それは、おそらくボブ・ディランという音楽家、その歌がどれほどの意味を持つのか、この日の実況録音で最もクッキリと描き出した最重要箇所なのに。
それは4曲目「ブロウイング・イン・ザ・ウィンド」をスティーヴィ・ワンダーが歌いはじめる前のこと。Spotify ヴァージョンではいきなり歌からはじまっているかのように編集されているが、CD で聴ける当日の現場ではそうではなかった。歌の前に約二分間のスピーチがある。それはスティーヴィがピアノを弾きながらそれを BGM にしてみずからしっかり語りかけているものだ。
この YouTube 音源にあるフル・ヴァージョンでお聴きいただければ説明不要だけど、いちおう。スティーヴィは、この歌が長い長い時代をとおし同時代的な強い意義と重要性を放ち続けてきたと言い、1960年代、70年代、80年代、90年代と順に具体例をあげながらわかりやすく説明し強調している。公民権運動、ヴェトナム戦争、ウォーターゲイト事件、南アフリカのアパルトヘイトに対する抗議運動、などなど。
つまり、ボブ・ディランの「ブロウイング・イン・ザ・ウィンド」という曲が、時代と世界を超えた普遍性を持つもので、いまでも重要なのだとスティーヴィはピアノを弾きつつしっかり語ってから、ドラム・ロールが入って、いざ、「♪ハウ・メニー・ロ〜〜ズ♫」と歌いはじめる。だからこそ、その瞬間に鳥肌が立つんだ。中間部のハーモニカ・ソロも絶品。時空を超えた歌であるばかりか、音楽ジャンルをもまたいでいる。
このコンサートは1992年のものだからスティーヴィも90年代にまでしか言及できないが、いま21世紀、特にここ2010年代後半にぼくたちがリアルタイムで実感している人類の危機、人権軽視問題、それに向けてもボブ・ディランのこの「ブロウイング・イン・ザ・ウィンド」はとっても意義深い重要性を放っているように思うんだよね。いままたもう一度、思い出そうじゃないか。
いま、地球上のぼくたちがいったいどういった状況に置かれているのか、考えてみよう。そして、ボブ・ディランのこの歌が2019年にもどれほどの強いレレヴァンスを持っているのか、聴いて、かみしめたい。そんな契機には、このスティーヴィの、演奏前のスピーチ付きのヴァージョン「風に吹かれて」が最好適じゃないかなと思う。
『ザ 30th アニヴァーサリー・コンサート・セレブレイション』全体では、ボブ・ディランのソング・ブックをみんながとりあげたいろんなおもしろく楽しいヴァージョンがあるので、それはそれでまた機会を改めて書いてみたいと思っている。
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