カークを聴くべきロイ・ヘインズ・カルテット
ロイ・ヘインズ(なんと93歳現役!)の『アウト・オヴ・ジ・アフタヌーン』(1962、インパルス)は、なんてことない普通のモダン・ジャズ・アルバムだ。ローランド・カークが主役であるにもかかわらず、というか、ここは意外に思われるかもしれないが、きれいなメインストリーム・ジャズ作品。カークって、ただきれいに吹く主流派ですからね。それなのに、音を聴かずゲテモノ扱いしてイメージを定着させたのは、某岩浪洋三の罪だ。
ローランド・カークがあのリード楽器を複数同時にくわえていたり鼻で吹いたりといったああいった容貌とは裏腹に、出てくる音をしっかり聴けば、ふつうにきれいなだけの、だけっていうか、かなりしっかりした守旧派リード奏者なのはあきらかだろう。いまやこの見方が定着しているようで、うれしいかぎり。そんなカークをフィーチャーしたのが、ロイの『アウト・オヴ・ジ・アフタヌーン』なのだ。
実際、このアルバムの1曲目「ムーン・レイ」(アーティ・ショウ)を聴けば、カークが美に徹した演奏をしているとわかる。ひとり同時多重奏もやっているが、そうすれば音にふくらみが生まれ、きれいな旋律がよりいっそうきれいになるという計算のもとでのこと。曲じたいがもとからきれいなんだけど、それを最大限に活かすべく腐心して吹奏している。
それからこのアルバムのピアノがこれまたトミー・フラナガン。特に派手さ、きわだった美しさなどをことさらには表現しないひとだけど、ここでもツボを押さえた着実な演奏ぶりで、伴奏にソロにと活躍。ベースのヘンリー・グライムズは、このアルバムではまだまだどうってことない。リーダーのドラマー、ロイ・ヘインズは、ところどころでビートにアクセントやニュアンスをつけ、ふつうのメインストリーム・ジャズ演奏にアクセント、色彩感、躍動感、遊びをもたらしている。
2曲目が、日本ではアニメ『エヴァンゲリオン』で使われて再ヒットした「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」。ワルツ・タイムにアレンジしてあるが、カークがちょっとだけフリーキー・トーンを発する。ここではややとんがっているのかな。その他、ヘインズのオリジナル楽曲では、カークがすこしアウト気味に吹く場面もあり。それをほかの三人が抑制しているというか、まあカークもそんなにフリーキーな持ち味のひとではないですがゆえ。
それからカークはなにを吹いても音色がいいよね。エモーショナルで色艶があるように、音だけ聴いて感じることができる。ちょっとたまに情緒過多かも?と感じるときすらあるほどで、そんな強めのエモーションが漂っているところもぼく好みなところ。あくまで美しく美しく、もとの曲の味をこわさないようにていねいに演奏するカークだけど、そこに生々しい艶っぽさが混じるのがイイ。
アルバム5曲目「イフ・アイ・シュド・ルーズ・ユー」。だ〜いすきな歌だ。この悲哀に満ちた一曲を、やはりカルテットがふつうにきれいにやっているだけなのが好感の持てるところ。饒舌なカークは、ここでも音数多く吹いていて、まるで一時期のジョン・コルトレインを彷彿とさせるシーツ・オヴ・サウンドみたいにちょっとだけ。ガーシュウィンの「サマータイム」などを引用。
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