アメリカ南部のブルーズと英国トラッド 〜 レッド・ツェッペリンで
もっともこれはブルーズじゃなくて、ゴスペル・ソングだけどね。でも『プレゼンス』での初演以来、レッド・ツッェペリンはブルーズとして扱ったきたというのが事実。それに実際、第二次世界大戦前のギター・エヴァンジェリストの世界は、弾き語りブルーズと(歌詞内容以外では)差がないんだしね。だから、「ノーバディーズ・フォールト・バット・マイン」もブルーズみたいなもんだろう。
それをジミー・ペイジ&ロバート・プラント名義のアルバム『ノー・クォーター』(1994)では、お聴きのとおり、ブリティッシュ・フォークの趣でやっている。これはこの CD 発売当初、ちょっとした驚きだった。渋い、渋すぎるとみんな言っていたけれど、これがいったいどういった試みなのか、いまだにちゃんと解明してある文章に出会わないから、ぼくが今日ちょっとやってみる。
ハーディ・ガーディのクレッシェンドで入ってくるイントロにドラムスが入り、アクースティック・ギター二本とバンジョーがからむというサウンド構成からして、完璧にトラッド・フォークのそれじゃないかな。ロバート・プラントは年齢のせいもあってかつてのようなハード・シャウトは不可能だが、可能だったとしてもここではそんなシンギングを抑えたはず。実際、ここでも落ち着いた表情を見せている。
こんなサウンド・メイクとシンギングを、さかのぼってレッド・ツェッペリン時代からちょちょっと拾って並べたのが、上のプレイリストだ。初期に集中しているのは当然だけど、意外にも『II』からの曲がない。『III』の B 面はもちろんそのままぜんぶ入れてある。そここそが、こんなトラッド・フォーク・ブルーズみたいな世界の、ツェッペリンにおける、最大の展開だったんだから。
ツェッペリンにおけるトラッド・フォーク路線は、しばしばケルト神秘主義と結合していた。そんな合体と、さらにそこに、このバンドの特色だったメタリックなハード・ロック傾向を加味して昇華したのが、1971年リリースの四作目だね。やはり A 面ラストだった「天国への階段」で完成を見たと考えていいんだろう。ただし、この名曲はトラッド・フォーク・ブルーズといった趣はやや弱くなっていて、その前の「限りなき戦い」のほうに、個人的には大きな魅力を感じる。
ファースト・アルバムにあった「ブラック・マウンテン・サイド」は、もちろんバート・ヤンシュが伝承曲「ブラック・ウォーター・サイド」を弾くそのギター・パターンをそのまま拝借してタブラを足しただけ(で自作とのクレジットだったんだよな〜)のものだけど、ヤンシュはアン・ブリッグズからこの曲を教わったらしい。アン・ブリッグズの世界は『レッド・ツェッペリン III』B 面にもかかわっていそうだね。
『III』B 面に来て、「ギャロウズ・ポール」はやはりトラッド・ナンバーだけど、後半はややロックっぽいハードさもある。プラントもシャウト気味になっているし、そのあたりはややいただけない。最後までじっくり淡々と進んでほしかった。がしかしこの伝承曲(レッドベリーがオリジナルだとか、レッドベリー・ヴァージョンを下敷きにしたとかいう文章も見るが…)をとりあげたということじたいに、ある種の強いアプローチを読み取れる。
「タンジェリン」「ザッツ・ザ・ウェイ」「ブロン・イ・アー・ストンプ」と自作ナンバーが続くけれど、ソング・ライティングにはあきらかなトラッド・フォーク/バラッドからの影響が聴けるよね。アン・ブリッグズの影みたいなことはこんな部分にもある。ツェッペリンがアンのファンだったことは間違いないんだから。ところで、失恋をテーマにした「タンジェリン」って、本当にいい曲ですねえ。
『III』のラスト「ハッツ・オフ・トゥ・ロイ・ハーパー」は、最も鮮明にはブッカ・ワイトのやる「シェイク・エム・オン・ダウン」を参照している、というかそのまんま。ブッカはアメリカ南部の弾き語りブルーズ・マン。「ハッツ・オフ」も、基本はブルーズ・ソングなのだ。伴奏はアクースティック・ギターでの(ブルージーでもない)スライド・プレイのみ。
アメリカ南部のブルーズをとりあげて、それを「ギャロウズ・ポール」「タンジェリン」「ザッツ・ザ・ウェイ」「ブロン・イ・アー・ストンプ」に続けて、サウンド・メイクもまるで UK トラッド・フォークみたいにした「ハッツ・オフ・トゥ・ロイ・ハーパー」のことは、なんだかみんな嫌いらしいんだけど、考えてみたら1994年の「ノーバディーズ・フォールト・バット・マイン」へ続く道が敷かれていたんだね。
英国の&英国由来の(アメリカにも伝わった)伝承バラッドの世界は、あんがいアメリカ南部産のブルーズの世界と密接な関係がある。かのマディ・ウォーターズのレパートリーのなかにも「ローリン・ストーン」みたいな非黒人ブルーズ的というか、民謡っぽい曲があったりするし、ブルーズ・メン、ウィミンもよくやる「スタッカリー」なんかも伝承の物語歌、つまりバラッドなんだよね。アメリカ南部に伝わったバラッドというかお話は、黒人白人の共有財産だったものも多いし、たいていフォームもリズムも明確でない。
ブラインド・ウィリー・ジョンスンのやった「ノーバディーズ・フォールト・バット・マイン」は、ブルーズではなくゴスペルだけど、彼が録音する前から代々伝わってきていた民謡的な物語歌であったのは疑いえない。主にアメリカ南部で歌い継がれてきていたものをピック・アップしてレコードにしただけだ。
そんなことのルーツに英国産バラッド、つまり UK トラッド・フォークの世界があるのかもしれない。「ノーバディーズ・フォールト・バット・マイン」のジミー・ペイジとロバート・プラントがどこまで意図して掘り下げ読み込んで解釈したのかわからないが、一流音楽家ならではの直感的洞察だってあったと言えるのかもしれないよ。
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