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2019/02/08

あしたはもっとよくなるさ 〜 カーティス・メイフィールド

結果的にカーティス・メイフィールドの遺作となった1996年のワーナー盤『ニュー・ワールド・オーダー』。不思議な肌ざわりのアルバムだ。諦観や絶望があるかと思えば、前向きの肯定感だってしっかりある。それらがないまぜになって、全体的にしっとり落ち着いたムードのアダルト・オリエンティッド・ソウルとでもいうか、そんなような作品だよね。常にワン・セットである死と再生をこれほどリアルに描きこんでいる音楽もなかなかない。そんなことに、1996年時点では、あるいはカーティスが亡くなっても、気づいていなかった。

どうしても歌詞の意味を沁み込ませるように味わいながら聴くということになってしまうカーティスの『ニュー・ワールド・オーダー』だから、あえてそこに拘泥しすぎることなく、サウンドやリズムや曲想、曲調のおもしろさ、魅力などについて私的なことをちょこっとメモしておきたい。そうであるからこそ、このアルバムから死と再生のテーマを汲みとることができるんじゃないかと思うし。

『ニュー・ワールド・オーダー』の全13曲は、基本、版権登録(の年がリーフレットにぜんぶ記載されてあり)されたばかりニュー・ソングだけど、三曲だけ古いレパートリーの再演がある。6「ウィ・ピープル・フー・アー・ダーカー・ザン・ブルー」(1970)、9「イット・ワズ・ラヴ・ザット・ウィ・ニーディッド」(1979)、11「ザ・ガール・アイ・ファインド・ステイズ・オン・マイ・マインド」(1969)。

これらみっつのうち、「ダーカー・ザン・ブルー」と「ガール・アイ・ファインド」はとてもよく知られているものだからオリジナル・ヴァージョンは云々の説明の必要がない。後者はインプレッションズ時代の曲で、歌詞が、うん、言わないと言ったけれども、マジでいいよ〜。沁みる。「ぼくの見つけた新しい女の子、魅力的、でも去っていっちゃうんじゃないかと心配、いままで全員そうだったんだもん、今度こそ…、本当に気になるなあ」って感じ。

それはいい。問題は1979年の版権登録と記載のある9曲目「イット・ワズ・ラヴ・ザット・ウィ・ニーディッド」だ。これはそのころ、カーティスかほかのだれかが録音してましたっけ?ないんじゃないの?すくなくともぼくは知らない。たぶんだけど、そのころ書いてカーティスがひそかに持っていたお蔵入りソングだったんじゃないかと思うんだ。新作アルバムのためにひっぱり出してきたのかもなあ。

その「イット・ワズ・ラヴ・ザット・ウィ・ニーディッド」でもそうだけどザップのロジャーらが参加しているのはこれもいいがそれよりも6曲目「ダーカー・ザン・ブルー」でのロジャーの活躍がめざましい。本当に見事な仕事をしている。「ダーカー・ザン・ブルー」では、カーティスのヴォーカル以外にロジャーしかおらず、すべての楽器をひとりで担当し、トラックをつくりあげている手腕にうなるしかない。

ここでの「ダーカー・ザン・ブルー」は、基本的に1970年のオリジナルに沿ったアレンジなんだけど、だから中間部でパッと雰囲気がチェンジしてにぎやかなパーティーみたいになっている。そのパートでロジャーはカーティスの声を含め、いろんな音や声をサンプリングしてコラージュし、売りであるトーク・ボックスの音も大胆に交えながら、聴きごたえのある中間部を創っているんだよね。すばらしい仕事だ。

それが終わってふたたび後半の落ち着いたパートになっても、実に淡々と心境を綴るカーティスのヴォーカルに、前半部同様トーク・ボックスでロジャーがからんでいる。それが実にいいエフェクトだ。ご存知のとおりの歌詞な曲なんで、ロジャーのあのトーク・ボックス・サウンドがいい陰影となっている。大成功じゃないかな。曲の終幕部でカーティスは「あしたはもっとよくなるさ」と歌って閉めるが、1970年のヴァージョンとはことばの意味が大きく異なっているよね。考え込むのはやめておく。

ぼくにとっての『ニュー・ワールド・オーダー』とは、こんな「ダーカー・ザン・ブルー」と、それから1996年当時はそうでもなかったんだけど「ガール・アイ・ファインド」が、最高に沁みるものだ。この二曲こそ個人的白眉。いやあ、たまりません、こんな二曲。泣いちゃうよ。

しっとり落ち着いたそれらだけじゃなく、快活でジャンピーなトラック、たとえばアリーサ・フランクリン参加の3曲目「バック・トゥ・リヴィング・アゲン」や、また5「ジャスト・ア・リトル・ビット・オヴ・ラヴ」、10「ザ・ガッド・デン・ソング」には、カリブ〜ラテンな空気がはっきりと漂っているのも、とってもいいね。大好きだ。特に3と10でエレキ・ギターがそこはかとなく3・2クラーベのパターンで刻んでいるのが印象に残るし、曲想もカリブふう。

最高に沁みる11曲目「ガール・アイ・ファインド」が終わったら、アルバム『ニュー・ワールド・オーダー』にはダークな幕が降りる。12「レッツ・ナット・フォーゲット」も13「オー・ソー・ビューティフル」も重く暗い。ヘヴィ・シリアス・ソウルとでもいったフィーリング。バック・トラックのサウンド・カラーとリズムがヘヴィでダウナーだと思うんだよね。

つまりさ、1996年の作品だけど、まるで2010年代後半の R&B みたいじゃない。ブルー&ダウナー。むろん、カーティス自身のおかれた状況がそういう音楽を生み出していたわけだけど。ちょっとおそろしい。

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