« けっこう多彩なスペンサー・ウィギンズの世界 | トップページ | スリム・ゲイラードのドット録音 1959 »

2019/02/25

人生、これカヴァー 〜 ジョアン・ジルベルト

2007年のオフィス・サンビーニャ盤コンピレイション『ジョアン・ジルベルトが愛したサンバ』。これはサンバ聴き、ボサ・ノーヴァ聴き、ジョアン・ジルベルト愛好家の三者にとってたいへん意義深く貴重なアルバムだ。世界最高のボサ・ノーヴァ歌手ともいうべきジョアン・ジルベルトのレパートリーのなかには、自作曲とか彼のために書かれたオリジナル楽曲がほぼなくて、100%近くカヴァーばかりとはよく知られているところ。

ジョアンが歌うのは、同時代の、たとえばアントニオ・カルロス・ジョビンの書いたものなどもあるけれど、多くがもっと前の1940〜50年代のサンバ・ソングなのだ。キャリア初期からいまでもそう。ジョアンの音楽人生とは、これすなわち、ずっとカヴァー人生。彼ほどの大きな存在にして、これはなかなか珍しい。というか世界でもほかにいないのでは。

そんなジョアンの歌ったサンバ楽曲のオリジナル・ヴァージョンをどんどん並べて紹介してくださっているのが、アルバム『ジョアン・ジルベルトが愛したサンバ』なんだけど、これに収録されている音源は、ブラジル本国でも多くが未復刻のままらしい。復刻先進国なんですよ、ブラジルは。ってことはこのアルバム、ジョアンを知り、ボサ・ノーヴァの本質を探るとともに、サンバ聴きにとっても有意義なものだっていうことなんだよね。

でもでも、そんな探求側面ではなく、アルバム『ジョアン・ジルベルトが愛したサンバ』は、なんたって通して聴いて、だらだら流すだけでも、この上なく楽しいんだ。掛け値なしにハッピーなウキウキ気分になれる。これがあるから、なんどでもこのアルバムを聴けるんだよね。結果的に未復刻音源だったものが多いということで貴重な体験にもなってくるというわけ。

そんな楽しみの個人的な部分だけをちょちょっとメモしておこう。このアルバム『ジョアン・ジルベルトが愛したサンバ』で、最もよく知られている曲は、たぶん1曲目の「ブラジルの水彩画」(Aquarela Do Brasil)と10曲目の「ドラリーシ」(Doralice)だろう。前者はジェフ&マリア・マルダーもやった。後者はジャズ・ファンだって知っている。スタン・ゲッツ参加の例のヴァーヴ盤でもやっているからだ。

アリ・バローゾの書いた「ブラジルの水彩画」のほうはそうでもないんだけど、ドリヴァール・カイーミの書いた「ドラリーシ」をアンジョス・ド・インフェルノ(Anjos Do Inferno)がやっているヴァージョンは、このアルバムで聴いて大好きになった。アンジョスはヴォーカル・コーラス・グループで、軽妙洒脱な味を持っている。

そのほか『ジョアン・ジルベルトが愛したサンバ』にはヴォーカル・コーラス・グループがかなりたくさん収録されていて、ジョアンはそういったサンバが大好きだったみたい。しかし編纂・解説の田中勝則さんによれば、そのあたりは最も復刻が進んでいない音楽だそうで、そういえばアメリカ合衆国音楽でもジャイヴ・グループとか、ジャイヴでなくともヴォーカル・コーラスは人気ないもんなあ。

あ、そうそう、以前、カルメン・ミランダのレパートリーばかりを歌ったオリジナリウスのことを書いたでしょ。あのバンドはいまの新人に近いキャリアで若者だけど、ヴォーカル・コーラス・グループだよ。しかもサンバばかり歌っているっていう、あれれ、このオルジナリウスの『Notável』って、ちょっぴりジョアンが好きだった世界に近い?
ともあれ、バンドの一員として歌い録音したキャリアごく初期を除けば、ソロ・デビュー後のジョアンはコーラスで歌うってことはなくなった。多くのばあい自分の弾くギターの伴奏でひとりで歌う。しかしそのオリジナル・ヴァージョンがしばしばコーラス・ソングだったのはなかなか興味深い事実だ。バンドでの演奏スタイルや歌手の歌いかたも、ジョアンのなかにどう吸収されたかを考えるとおもしろい。

『ジョアン・ジルベルトが愛したサンバ』収録曲でも、やはりリズムが典型的なサンバのそれになっているものは、どんな伴奏編成でも単独歌唱でも、ぼくは大好き。2曲目カルメン・ミランダ&ルイス・バルボーザの「バイアーナのお盆には」(No Tabuleiro Da Baiana)、3、シルヴィオ・カルダス「黄金の口を持つモレーナ」(Morena Boca De Ouro)、5と6のオルランド・シルヴァ「はじめての時」(A Primeira Vez)、「十字架のもとで」(Aos Pez Da Cruz)。

ここから10曲目までがドリヴァール・セクションである(これの前はアリ・バローゾがテーマ)7、バンダ・ジ・ルア「わが故郷のサンバ」(Samba Da Minha Terra)、ジェラルド・ペレイラとジャネー・ジ・アルメイダのセクションを経ての、17、オス・カリオーカス「さよならアメリカ」(Adeus America)ではビ・バップ・スキャットまで聴けて興味深い。18、オス・ナモロードス「サンバが欲しい」(Eu Quero Um Samba)もいいリズムだ。ジョアン・ドナートがアコーディオンで弾くサンバ・シンコペイションには、ジョアンのギター・スタイルの源泉を見出せる。

19曲目、ガロートス・ダ・ルア「君が思い出すとき」(Quando Voce Recordar)からサンバ・カンソーンに突入しているみたいな感じだけど、これと20曲目はジョアンの処女録音なんだよね。ボサ・ノーヴァをこここに聴きとることはちょっとむずかしいかもしれない。またジョアンの珍しい自作である23、マイーザ・ガタ・マンサ「あなたは私のあの人と一緒にいた」(Voce Esteve Com O Meu Bem)は、カエターノ・ヴェローゾがとりあげた。この曲、大好きなんだ。たしかにここで聴けるマイーザ・ヴァージョンはイマイチだけどね。

22曲目、ディック・ファーニーの「もう一度」(Outra Vez)なんかも、とてもすぐれたサンバ・カンソーンで、夜の音楽のムード横溢で実にいい。アルバム『ジョアン・ジルベルトが愛したサンバ』の最終盤二曲はジョアンのソロ・デビュー録音で、これもほぼサンバ・カンソーンだけど、歌いかたはオルランド・シルヴァそっくりだ。

« けっこう多彩なスペンサー・ウィギンズの世界 | トップページ | スリム・ゲイラードのドット録音 1959 »

音楽」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 人生、これカヴァー 〜 ジョアン・ジルベルト:

« けっこう多彩なスペンサー・ウィギンズの世界 | トップページ | スリム・ゲイラードのドット録音 1959 »

フォト
2019年11月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
無料ブログはココログ