自然と密着したスコットランドのトラッド・カルテットがいい 〜 ファラ
このアルバム、bunboni さん経由で山岸伸一さんに教えていただきました。
ファラの『タイムズ・フロム・タイムズ・フォール』(2018)。トラッドというか、ぜんぶ自作曲なんだけど。ほ〜んとカッコいいジャケット・デザインだよねえ。見た瞬間に、こりゃいいんじゃないかと思ったらビンゴ。鮮烈な印象を残すあざやかな音楽で感心しちゃった。ファラはスコットランドの四人組。三人までがフィドルで、ほか一名がピアノだけど曲によってはフィドルという、なかなか変わった編成。しかし奇をてらったふうはなく、あくまで素直にストレートに、ケルト・トラッドふうのメンバー自作曲を演奏していて、好感度大。
コンボ編成だけど同じ楽器を多数起用して音を重ねるといえば、ジャズのマイルズ・デイヴィスが1968年暮れから70年まで、鍵盤楽器奏者を二名か三名同時起用していた。ファラの多重フィドルも複層的に重なり合い、クラシック音楽みたいに整然と合奏するだけでなく、微妙にズレているのはあえて意図してやって、サウンドにふくらみを持たせようという試みだとわかる。
たしかにケルト系のトラッドらしく猛烈にドライヴする曲もすばらしいんだけど、しかもそれが多重フィドル演奏で実現しているわけだからユニークな個性といえるけれど、この手のドライヴ感はこういった種類の音楽、のことにフィドル演奏ではあたりまえなものだから、そんなに独自だという印象を持たなかった。いや、めくるめく展開はたしかに見事。
それより個人的に印象に残ったのは静かでゆったりした(バラードっぽい)曲の数々。3曲目「アト・ジ・エブ」(からそのまま続けて4曲目に入る)とか、ヴォーカル・ナンバーである5曲目「ソング(ラヴ・ギャザーズ・オール)」とか、7「フランシス・デイ」、8「シー・イット・オール」、そしてなによりアルバム・ラスト12曲目の「マックスウェルズ・ライト」。
それらゆったり静謐ナンバーのほうに、むしろドラマを感じるのだった。美しい自然の風景を眺めているかのような、そんな気分で、内心落ち着くことができて、心象も暖かく豊かになっていくような、そんな心持ちがするよ。自然と密着したケルト系トラッドの世界を、自作曲で見事に実現しているなあ。ファラって、ただカッコイイだけじゃない懐の深さを感じる四人組だ。
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