むかしこんなひとがいた
22歳で東京に出てきたんですけど、その前の五年間がジャズ時代というかジャズ修行時代っていうべきでしょうか、ぼくにとってはそんな時期でした。情報というか、知識と知恵を求め、経験を求め重ね、そして当時はレコードしかありませんでしたからレコード・ショップのジャズ・コーナーで長い時間を過ごしていましたねえ。
だいたい、ジャズのレコードでどれを聴いたらいいか、このジャズ・マンのことはちっとも知らないけどどこから聴いていったらいいか、なんていうことも、まあ1979年以後のことですからそれなりに情報というかガイドがあったんですけど、ものによってひとによって、言うことが違っていたり正反対だったりしますから、結局のところ、自分の直感みたいなものを信じるしかないんです。
ずっとそれでちょうど40年間やってきました。結果的にこんな人間になりましたから、成功だったか失敗だったか、自分では判断できません。それでもまあまあちょっとは聴いてきたと言えるんじゃないかと、ぼくなりに自負しております。そんなあいだ、ときどきはイヤな思いをしたりゲンナリすることもあったんです。
いちばんチェッ!と思った瞬間は、レコードを買う際、他人にその選択を支配されようとしたりしたことでした。さすがに2019年ともなればそんなひとびとは絶滅したと信じていますが、むかしはこんなひとがいたんです、それもレコード・ショップにですよ、アンタにこれはススメられない、まだ早い、まずこっちから聴け、だからまずこれを買えと言われるんです。ジャズのレコードの話です。それもレコード・ショップのジャズ担当者が言うんですよ。
なんどがあったんですけど、おかしいでしょう。レコード・ショップで、たとえばチャーリー・パーカーを抜き出して、大学生のぼくはお店のおじさんに聞くんです、「これはどんな感じですか?」と。すると、上で書いたような内容をまくしたてられ、ウンチクを聞かされて、挙げ句の果てにぼくが抜き出して尋ねたレコードは売ってもらえないんですよ。
こんなことがあっていいのでしょうか。ジャズにかぎらずどんな音楽家でも、どこからまず入って聴きはじめるかは、各人おのおの自由でいいはずです。その音楽家をよ〜くご存知の先輩が、まあよかれと思っての老婆心なんでしょうけど、これはまず入門には向かない、まず順番にこれらを聴いてからそれを、とアドヴァイスなさりたいお気持ちは、ぼくもいたくわかります。けど、やっちゃダメですね。
そういった老婆心の発揮は、たんにアドヴァイスとして功を奏さないばかりではありません。マニアとして自分たちとその世界を囲い込み、結果的にその音楽家や音楽の敷居を高くして、これから入ってこようという人間を遠ざけてしまうだけなんです。つまり、ご本人の意図と正反対の結果しかもたらしません。
なににガビ〜ンと来るかは、ひとそれぞれ違うと思うんです。ツウが思う意外なものが、イイッ!と感じることだってありますよね。
以前、ぼくは痛烈なマニア批判を(サッカー・マニアと上西小百合議員の一件にからめて)やりました。
https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2017/07/post-6f6b.html
これは自戒の念を込めてという意味もあっての文章だったのですが、今日のこの文章も、長年にわたるぼくのレコード/CD 蒐集と、それにともなってのイヤな経験とをあわせ、はたして自分がそんなダメおやじになっていないかを自省してという側面もあるんです。
他人にアドヴァイスする際は、細心の注意を払わないといけませんね。
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