イーグルズ『ザ・ロング・ラン』がわりとブラック・ミュージックだし
https://open.spotify.com/album/1sW1HxI9VppbiXqgFQHVCP?si=wF131hFYSjmlcS6GmdBESg
『ホテル・カリフォルニア』の大成功から二年以上を経て1979年に発表されたイーグルズの『ザ・ロング・ラン』。個人的にはこれがリアルタイムでの初&唯一イーグルズなのだ。解散前にもうひとつ、ライヴ・アルバムがあるが、どうしてだかその気にならず手に取ったこともない。むろん再結成後なんか眼中にない。それは『ザ・ロング・ラン』が強い終末感を、すなわちぼくたちはもう終わったんですよというオーラを強く放っているせいかもしれない。
リアルタイムでの初&唯一のイーグルズなんだから、彼らのほかのどんなアルバムより思い入れは強い。そしてそれ以上にこの『ザ・ロング・ラン』を特徴付けているのは、けっこう黒っぽいということだ。たぶんイーグルズが最もブラック・ミュージックに接近したのがこの一枚なのだ。こういったことをイーグルズのファンやロック専門家のどなたかがたぶんすでに言っているだろうとは思うものの知らないので、今日、ぼくなりに書いてみようっと。
5曲目の「キング・オヴ・ハリウッド」までがレコードでの A 面だったが、そういった思い出にかかわる部分をいったんおくと、まずオープナーの「ザ・ロング・ラン」がわりかしメンフィス・ソウルふうなビートというかリズムの創りじゃないかな。それをもっとタイトにしたみたいな感じがする。そのほか、『ザ・ロング・ラン』で黒人音楽的かなと思うものを拾ってみれば、2曲目「アイ・キャント・テル・ユー・ワイ」、5「キング・オヴ・ハリウッド」、7「ゾーズ・シューズ」、8「ティーネイジ・ジェイル」あたりかな。ラストの「ザ・サッド・カフェ」はジャズだけど、黒人音楽的ではないね。
2曲目、新参加のベーシスト、ティモシー・シュミットの「アイ・キャント・テル・ユー・ワイ」。これこそ、レコード発売当時から現在2019年まで、ずっとこのアルバムでいちばんの愛聴曲。これは R&B バラードだもん。ブルー・アイドだけど完璧だ。ブラック・ミュージックのデリケートな肌ざわりがあるよね。サウンド・メイクもそうだけど、なんたってティモシーのやわらかいヴォーカルと、それからクリーン・トーンで弾くグレン・フライのギター・ソロで泣ける。すばらしいのひここと。
5曲目「キング・オヴ・ハリウッド」は特に黒人音楽的に聴こえないかもしれないが、この淡々と進むビート感。起伏に乏しく(平坦で)起承転結がなく、同一の雰囲気と同一のパターン、ワン・グルーヴを延々と反復しているこのサウンド&リズム・メイク、それがブラック・ミュージック的だなと思うわけ。だいたい音楽における<ドラマ>なんて、近代西洋の発想だ。黒人音楽はその尺度では計れない。
7「ゾーズ・シューズ」、8「ティーネイジ・ジェイル」はやや似たような黒人音楽寄りのサウンドを持っていると言えるかも。それはファンクへのアプローチ、それもリズム面でなくサウンド・カラー面での接近といったことがあるんじゃないかと思う。粘りつくような湿度の高い音色でやる(特に)ギター・トーンの創り。ザップのロジャーなんかに相通ずるものがあるよねえ。
「ゾーズ・シューズ」ではジョー・ウォルシュ、ドン・フェルダーが二名ともトーキング・モジュレイターをエレキ・ギターにかませて弾いている。つまりトーク・ボックスのサウンドになっているよね。この二人のトーク・ボックス・ギターのからみがこの曲最大の聴きどころ。どう、粘っこいよね。大好きだ、こういうの。この曲ではこころなしかビートもファンクっぽい。
「ティーネイジ・ジェイル」での聴きどころとぼくが感じるのは、この大きくゆったりうねる&ストップ・タイムを活用したリズム(とドラミング)と、それからやっぱり楽器ソロだね。一番手でシンセサイザー・ソロが出るが、グレン・フライとクレジットされている。鍵盤シンセだとは思うけど、ちょっぴりギター・シンセっぽくもあるフレイジングだよね。あれっ?やっぱりギタシンなの??ともかくそのシンセの音色がまるでクラヴィネットみたいに粘りつく。この粘着力はブラック・ミュージックのそれだよ。
アルバム・ラストで、ゲストにデイヴィッド・サンボーンを迎えてやっている「ザ・サッド・カフェ」。幕閉めに置かれていることといい、これ以上の終末感もないもんだと思うほどのわびしさだけど、しかしそのなかでもアクースティック・ギターのカッティングに着目したい。黒人音楽らしさはないかもだけど、ラテン・ビートの亜種のようなリズム・ニュアンスがあるじゃないか。特にソロ部。ドン・フェルダーが弾いているんだってさ。ラテンの痕跡が聴けるのは、いかにも西海岸のバンドの終焉にふさわしい。
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