ブラジルのギター・ミュージック三題(2)〜 マオガーニ
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(クアルテート・)マオガーニの新作『アルバム・ダ・カリフォルニア』(2019)。表ジャケットにはセルジオ・メンデスがプロデューサーだと明記してあるね。縁が深いことはわりと知られているんじゃないかな。それにしてもブラジル盤ってデジパックばっかりだ。あ、いや、ときたま薄い紙ジャケットもあるな。でも大半がデジパック。歓迎したい。紙ジャケだらけならもっといいぞ。
マオガーニはブラジルのギター四人組(七弦、六弦、レキント&八弦、八弦)だけど、新作にカリフォルニアとあるのは、どうやらこれはアメリカ合衆国はロス・アンジェルスのスタジオで録音されはじめたものらしいね。そういうことでアルバム題になっているんだろうか、たぶん。それもセルジオ・メンデスゆかりの事情なんだそうだ。
ロス録音だからなのか関係ないのか、『アルバム・ダ・カリフォルニア』には(ジャズ・メンなどもよくやる)アメリカ合衆国のスタンダードが三つ含まれている。なんたって1曲目がガーシュウィンの「アイ・ガット・リズム」だもんね。そのほか、このアルバムは名曲選みたいな趣があって、アメリカ合衆国のもの(ヘンリー・マンシーニとコール・ポーターもあり)だけでなく、ミルトン・ナシメント、シコ・ブアルキ、ジルベルト・ジル、ラダメス・ニャターリ、トム・ジョビン、アリ・バローゾ、ジョアン・ドナート、バーデン・パウエル、ルイス・ボンファ、と錚々たるメンツの曲をやっているんだよね。アルバム題の「カリフォルニア」とはそういった(宝の山みたいな)意味合いもあるのかな。
ギターの四人だけで演奏する曲もあるものの、ゲスト参加ナンバーも多い。いちばんたくさん参加しているのがパーカッションのマルコス・スザーノ。マルコスと4曲目のフレーヴォで共演しているのがバンドリンのアミルトン・ジ・オランダ。ヴォーカルのモニカ・サウマーゾ&レナート・ブラスが7曲目で。9曲目には木管奏者。11曲目にはアイアート(アイルト)・モレイラ。
まあはっきり言って雰囲気一発みたいな音楽かなとは思うんだけど、ギターの四人がやっていることは相当テクニックが高度だ。でも聴いた感じそんな印象がなく、あくまでやわらかくやさしく耳あたりのいい音楽に聴こえる BGM 風情がいいんだとぼくなら思うなあ。いちばんむずかしいことだし、一聴して難解そうに思える音楽なんて、いまではあんまり…、っていう気分。
それでも4曲目の高速フレーヴォなんかはなかなかものすごいとわかるもので、疾走するアミルトンもすごいがマオガーニの四人も爆進している。さらにマルコス・スザーノのパーカッションがまるでドラム・セットの音みたいに聴こえるけれど、これはあくまでドラムスじゃないんだよね?スネアの音みたいに聴こえるのはたぶん小太鼓みたいなものを叩いているんだろう。しかしこの曲での六人の疾走感はすごいぞ。
アイアートが参加の11曲目もスピーディでテクニカル。マルコスと違ってアイアートは大きくフィーチャーされていて、ストップ・タイムを使ってバンドが止まったブレイクにアイアートのソロがなんどもはさまっている。演奏もかなりいい。ベテランならではの円熟味など感じさせない若くてハツラツとした打楽器演奏ぶりに頬もゆるむってもの。
ヴォーカリスト参加の7曲目はミナス系みたいでそれもいいけれど、しっとりとした泣きのショーロ系みたいな3、8あたりもいい感じ。アメリカ合衆国産の曲三つはぼくにはイマイチかな。でもトム・ジョビンの「サーフボード」とメドレーになっている「アイ・ガット・リズム」は好きだ。移行の瞬間も楽しい。アルバム・ラスト「カーニヴァルの朝」は短くアッサリとしていて、ちょっとしたコーダみたいなもんかな。もともとだいたいがそんな曲だしね。
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