わりかしラテンなソニー・クラーク
2019年3月上旬にブルー・ノート・レーベル公式配信で公開されたプレイリスト "Sonny Clark: The Finest"。この「ザ・ファイネスト」はシリーズみたいなもんで、ブルー・ノートはいろんなジャズ・マンについて同題の「だれそれ:ザ・ファイネスト」公式プレイリストたくさん作成・公開している。ベスト盤みたいなもんだね。いまこれを書いている3月8日時点での最新がソニー・クラーク。
計1時間56分のこのプレイリストを聴いて再確認したことは、ソニー・クラークの録音にはわりかしラテン・タッチがあるぞ、ということだった。といってもたいしたことはない、ほんのちょっとのことのことなんだけど、でもそれはある種の本質が垣間見えているということだと判断できるので、すこし書いておきたい。
ソニー・クラークの録音で聴けるラテン・タッチはどれもアフロ・キューバン・スタイルで、しかもモダン・ジャズ・メンがよくやる典型的なものだ。ディジー・ガレスピーやアート・ブレイキーなんかで頻繁に聴けるあれね。モダン・ジャズにおける典型ラテンといえばたいていそれになるけれど、もとをたどるとビ・バップ時代にキューバ人ミュージシャンがジャズ・メンと共演して表現したものが直接のルーツなのかなあ。
プレイリスト『ソニー・クラーク:ザ・ファイネスト』でのラテン、つまりアフロ・キューバンなタッチは、しかしどれも部分的なもので、アド・リブ部でラテン・リズムが使ってあるのは一個もなく、テーマ演奏パートの一部でだけリズムがそんな感じにアレンジされているというだけだ。ドラマーが、特にスネアで、それをわかりやすく叩き出していることが多い。
たとえば「スピーク・ロウ」(『ソニーズ・クリブ』)。スタンダード曲だけど、このリズム・アレンジはもちろんソニー・クラークが施したもの。そのほか、自作ナンバーではもちろん、他作曲でもアレンジはソニーがやっていると言うまでもない。だから、彼はあえてこういったラテンなリズム・フィーリングをわざわざ選んだということになるよねえ。
プレイリストでの登場順に、たとえば「ダイアル S フォー・ソニー」(『同』)。これは鮮明なラテン・タッチではないのだが、コントラバスのウィルバー・ウェアがテーマ演奏部の背後で跳ねるビートをはじきだしているように聴こえる。感じすぎだろうか。ドラマーのルイス・ヘイズもリム・ショットを複雑に入れてシンコペイトする瞬間だってあるじゃないか。
ケニー・バレル参加の「マイナー・ミーティング」(『マイ・コンセプション』)。これもテーマ演奏の A メロ部でだけドラマーがスネアでラテン・ビートを叩いているし、こころなしかテーマ・メロディじたいもファンキーに上下するユーモラスなラテン・タッチふう?『クール・ストラティン』からの選曲である「ブルー・マイナー」はかなり有名なので多言無用だ。
プレイリスト・ラストの「ニューズ・フォー・ルル」(『ソニーズ・クリブ』)。テーマ演奏部でのアート・テイラーのシンバル遣いがなんとも魅惑的じゃないか。もちろん鮮明すぎるほどのラテン・ビートだ。たぶんこのプレイリストで、というよりぼくの思い出せるかぎりでの全ソニー・クラーク音源でも、この曲でラテン・タッチがいちばんクッキリし…、あ、いや、「ミッドナイト・マンボ」(『リーピン・アンド・ローピン』)があったか。
ソニー・クラークは最も典型的なハード・バッパーのひとりとして日本では大人気のジャズ・マン。特に奇や異や変や別や特をてらったところのない<ふつうの>モダン・ジャズ・マンなんだよね。そんなソニーの音楽のなかにでもこんなラテンなニュアンスがわりとはっきりと入り込んでいるという事実を、ふつうのジャズ・リスナーのみなさんにもっとしっかり考えてもらいたいと思う。
ジャズにおけるラテンというか中南米カリブ音楽は、本当に抜きがたいあたりまえのものなんだってこと。特別視したりすることなく、楽しんで聴いて、そしてジャズ・ミュージック揺籃期の文化混交のありようや、成立後の発展形態などをじっくり考えながらたどってほしいんだ。
ソニー・クラークは1963年1月に若くして亡くなってしまったけれど、相前後して、ぼくも昨年初夏来強調しつづけているブルー・ノート・ブーガルー #BlueNoteBoogaloo 、すなわちモダン・ジャズにおけるラテンな8ビート・ブルーズ・ファンクが勃興し流行している。あともうすこし長生きしていたらソニーだってやったかもと思うんだ。それを想像できたレーベル公式プレイリスト『ソニー・クラーク:ザ・ファイネスト』だった。
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