円熟のアンガーム2018がいいね 〜 特にリズム
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エジプトの歌手アンガームの2018年作『Rah Tethkerni』 は、ずばり、ハリージ・アルバムだね。ハリージとは近年の(クウェートなど)ペルシャ湾岸地域で盛んなダンス・ミュージックのこと。パーカッション類をがちゃがちゃと多用し、リズムがヨレて突っかかり引っかかるような独特のノリを持っているところが特徴。アンガームはそんな音楽に挑戦した。
だから2018年作はローカルもローカル、全面的にアラブの一色に染まっているわけ。国籍不問のユニヴァーサル・ポップスを歌っていたアンガームの姿はここにないが、しかしこの歌手が本来的に持っているアラブ古典歌謡の素養がフルに発揮され(ここまでアラブ色の濃い作品は、いままでのアンガームになかったのでは?)、結果、見事な結果につながっているとぼくは聴く。すばらしいアルバムじゃないかな。
出だしの1曲目からパーカッション類の独特の使いかたやそのリズムで、これはハリージだなとわかる。サウンドやリズムをプロデュース、アレンジしたのがだれなのか、とても知りたい気持ちだが、2018年のアンガーム(といっても録音はたぶん2017年内に行われたはず)なら、みずからの意思もかなり反映されていただろうとも推測できる。
ハリージを歌うんだというアンガーム自身の強い意思は、なによりその声の美しさ、張り、艶、伸び伸びとしたフレイジングなど、歌唱全体に聴きとることができる。歌手として完璧に円熟期に入ったことを確信できる見事な歌いっぷりで、乗りにくいんじゃないかと素人なら思うハリージのバック・トラックの上で自在に飛翔して破綻なく、立派な歌を聴かせてくれているよね。
ラテンだってある。「ワン、トゥー!」の掛け声ではじまる4曲目がそう。これはサルサなんだよね。この曲はアルバム中異質な感じもちょっぴりあるので、プロデューサーなどが異なっている可能性があるように思う。わからないけれども。しかしラテン/サルサなこの一曲のなかでも、後半部からはガチャガチャしたハリージっぽいパーカッション・リズムになって、やっぱりアルバムの全体像は損なわれていない。
このラテン・ナンバーが終わったら、アルバムは完璧にハリージまっしぐら。エジプト人なりの、というかアンガームなりのハリージ解釈だろうから、ダンスというよりも歌謡、またリズムのヨレかたもそこそこスムースなほうに流れているようには思うけれども、それでもまごうかたなきハリージ・ミュージックの展開だ。バラードっぽい曲でも、やはり背後で複雑なリズムをパーカッション類が刻み込んで、つんのめる。
それなもんで、激しいダンス・ナンバーである、たとえば6曲目(はちょっぴりだけフラメンコっぽくもある)とか、8曲目(はロック的でもある)とかなどでのリズムの強いネジレとヨレ、つんのめりと突っかかりかたは本格ハリージと呼んでもいいほど。また、ハンド・クラップも多くの曲で頻用されているし、生の人力演奏の割合もかなり増しているはずだ。
どっちかというとダンスというよりは聴かせるバラードのほうが多いのかなと思うアンガームの2018年作だけど、そんなバラディアー傾向は、次の今2019年作につながっていく部分でもある。2018年リリース作で、どうして突如こんなハリージ傾倒を見せているのかはわからないが、結果としては歌手としての円熟を見せつける結果となっていて大成功。実際、アンガームのヴォーカルは大人らしい落ち着きを増すと同時に飛翔力をも高めている。すばらしい熟しかただ。
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