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2019/05/02

ノラに夢中

Norahjonesbeginagainhttps://open.spotify.com/album/0iDASlJ6faB4ZDVkKlqbHj?si=YMPY3HfLSMiMMMI7VKBpqA

 

もうノラ・ジョーンズの新作のことしか頭にない。『ビギン・アゲン』(2019)。ぼくはそもそもノラのリスナーじゃなかった。『カム・アウェイ・ウィズ・ミー』をいまだ一度も聴いたことがなく、それ以後もほとんど聴いてこなかったというのが事実。それがどうだ、『ビギン・アゲン』のばあいは、リリース当日 Spotify で聴けるようになったら速攻で聴き、そのファースト・インプレッションも極上だったのでリピートし、CD を買い、きれいなジャケットに見惚れながら、なんどもなんども聴いている。トータル 29分という短さもとてもいい。

 

それだから今日の文章はいままでのノラのすべてをまったく知らない人間が書くということになるんで、的外れだったりすることも多いと思うけど、どうかご容赦を。とにかく新作『ビギン・アゲン』の肌触りがとても心地いい、心地よすぎるくらいだ、と感じているから書かずにおられないだけなんで、ぼくは特別ノラのファンだとかいうわけじゃありません。でも『ビギン・アゲン』はマジすんごくいいね。

 

『ビギン・アゲン』で一貫しているなとぼくが感じる最大のものは、ノラのこの声質だ。ザラついている。ザラリとした砂のような質感の、なんともいえない(悪い意味じゃなく)雑なトーンだ。それがとっても心地いいんだよね。しかもことばをわざと丁寧に発音せず、わりと適当に乱暴に、聴きとりにくいような崩した感じで発音しているのがいいね。

 

この二点、ノラのザラリとした声質と歌詞を投げやりに乱暴に発音するというこのふたつは、アルバム『ビギン・アゲン』を貫く基調だ。そしてそれがいまのぼくにはたいへん心地いいんだなあ。どうしてだろう?やっぱりジャズ・シンガー的なということになる発音かもしれないが、ちょっと違うような気もする。ちょっと街角のブルーズ・シンガー的な、そんな肌触りをノラのヴォーカル・トーンに感じる。

 

もともと『ビギン・アゲン』の多くは仲間との即興セッションからはじまったとのことで、だからこんなラフなタッチなのかなあ。っていうかいままでのノラを知らないので、このひとがいつもこんな発音と歌いかたなのかどうか、わからない。ただ『ビギン・アゲン』で聴けるような、いつもそんなヴォーカル・タッチのひとなら、ぼく、好きだなあ。

 

たとえば2曲目のアルバム・タイトル曲。「can we begin again?」とリフレインするのでそこが目立つんだけど、聴けば実に乱暴な、こういうことばだとわかりにくいくらい雑にザラッと発音しているよね。ヨタっているというか、まるで酔っ払いがロレツまわらないみたいな、そんな「キャン・ウィ・ビギン・アゲン?」じゃないか。そんなところにいまのぼくは好感を抱いている。親近感というか、ノラの日常性?

 

アルバムに収録の七曲は、大半が2018年にシングル・ナンバーとして配信されていたものらしく、だから結果的にはコレクションのような意味合いも持っているらしい。七曲のうち、エレクトロニカが二曲(1、5)あって、それもかなりの好印象。ピアノ弾き語りのジャズ(?)・シンガーだとはジャーナリズム情報でデビュー期から読んでいたが、こういったデジタルな質感のノラもいいなあ。

 

デジタルな感触といえば、残りの五曲は人力演唱によるものだけど、それらにもデジタル質感があるかのように聴こえるのがおもしろい。正確に言えば、1、5曲目のエレクトロニカとほかの五曲には思ったほどの差はなくて、聴感上一貫したトーンやクオリティがあるように思うんだ。だから、デジタルがヒューマンで、ヒューマンがデジタル。

 

トーマス・バートレットと組んでふたりでやった打ち込みナンバー二曲はどっちも好きだけど、それ以外なら、まず2「ビギン・アゲン」、そしてウィルコのジェフ・トゥイーディーとのデュオでやったギター・ピース(ノラもギターを弾く)4「ア・ソング・ウィズ・ノー・ネーム」がことさらお気に入り。サウンド・トータルで大好きだし、ノラのヴォーカルも(アルバムぜんぶそうだけど)全体のなかに溶け込んでいて、主張が強くなく、あくまで1ピースなのがいい。

 

そして4「ア・ソング・ウィズ・ノー・ネーム」でもちょっと感じるんだけど、7曲目「ジャスト・ア・リトル・ビット」のエキゾティカ、これがいいんだなあ。(アメリカから見た)異国趣味といっても、いったいどこらへんの感じ?というのがなかなかわからない。だけど、間違いなくエキゾティックなフィーリングがあるでしょ。特にトランペットとサックスの二管のリフなんか。しかもこの7曲目には(そうじゃないのに)打ち込み系みたいなデジタルな感触もある。

 

ノラのアルバム『ビギン・アゲン』は、トータル・サウンドと主役の声でまざりあってザラッとしていて、心地よく、まるでオーガニック・コットン100%のシャツを身につけているみたいな快感で、ちょっぴりのエキゾティカがスパイスとして全体を貫き、デジタルもヒューマンも差がなくてあったかい。人間の肌のぬくもりみたいな、そんな体温が気持ちいいみたいな、そんな作品だなあ。

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