最新型キューバ・ジャズ 〜 エル・コミテ
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一作目『Y qué !? (So What)』(2019)を出したエル・コミテ(El Comité)はデビューしたばかりのキューバのジャズ・グループ。といっても新人で構成されているわけじゃないみたい。ピアノ(鍵盤)二名、トランペット、テナー・サックス、ベース、ドラムス、パーカッションの七人編成だけど、リーダー格の鍵盤奏者アロルド・ロペス・ヌサ、もうひとりの鍵盤ロランドー・ルナ、ドラムスのロドネイ・バレットあたりは知名度のあるところ。ほかもキャリアのある演奏家が混じっている模様。
そんなエル・コミテの一作目『イ・ケ!?』はソー・ワットとタイトルにあるように、ひょっとしてマイルズ・デイヴィスのあれをやっているんじゃないか?そうじゃないかもしれないが、もしそうだったならマイルズ・マニアとしては絶対に見逃せないなということで買ってみたというのが正直なところ。しかしアルバムを聴いたらそれよりも全体的におもしろかった。
アルバム・ラストにあるのはたしかにマイルズの「ソー・ワット」だ。マイルズ・ヴァージョンでベーシストが弾くテーマ音列を、エル・コミテではピアノ(たぶんアロルド)が演奏している。ホーンズのアーメン合奏は同じ。その後やはりラテン/キューバ/サルサな展開を聴かせているのがこのバンドの特徴だね。こんなラテンな「ソー・ワット」はたぶん世界にふたつとないはず。しかも勢いとかノリっていうよりメロウさを前面に出したようなアレンジと演奏で、いやあ、楽しめました。
メロウさは、このエル・コミテの『イ・ケ!?』全体を貫いているトーンで、あわせてなめらかさとかスムースさも目立っている。このあたり、これはキューバのジャズ・バンドだけど、アメリカ合衆国の現在形ジャズもブラジルのでもそんなのが多いし、これって<アメリカの>先端ジャズに共通する特色なんだろうかなあ?わりとそういうのが目立つなと思うんだけど。
でもエル・コミテの『イ・ケ!』は、いかにもラテン・ジャズのバンドというだけのノリのよさや強いグルーヴがやっぱりそこかしこにあって、土地柄とか音楽の地域性は抜きがたいものがあるんだなと思う。静かな水のようにスムースに流れているばあいが多いブラジルなどのジャズとは違う部分だ。エル・コミテのこのアルバム1曲目を聴いただけでもわかると思う。
ときどきサルサ・ジャズみたいな激しいノリを聴かせるばあいだってあるエル・コミテ。バンドの肝というか最重要人物にしてぼくのいちばんのお気に入りになったのはドラムスのロドネイ・バレット。複雑なリズムを手数の多い細分化されたドラミングで表現していて、なかでもスネア・ワークがにぎやかで好みだ。シンバルはあまり叩いていないが、もっとシンバル使っていいぞ’。ともあれ、このビート感はぼく大好き。
それが典型的に出ているのが4曲目の「トランジシオーネス」。アロルドのピアノにロランドーのエレピがからみ、ホーンズによるテーマ合奏が出たらそのアブストラクトさにのけぞりそうになるけれど、その背後でのロドネイのドラミングの見事さには感心するね。その後のソロ・パートで各人がしのぎを削るが、リズムやビートが好きだ。アロルドのピアノはやっぱりちょっとサルサっぽい。特にブロック・コードで弾くばあいはね。ドラムスとパーカッションの打楽器掛け合いパートも楽しい。この曲はノリが強くていいね。
どこまでもメロウ路線をひた走る5曲目「カルリートズ・スウィング」もいいし、ふたたび強力にグルーヴする6曲目「アラマー 23」に聴きほれていると、7曲目「ナダ・マス」でやっぱり甘美の極み。二名同時演奏のピアノとエレピのからみが、5曲目でもそうだけど、本当にきれいだ。8曲目「ソン・ア・エミリアーノ」は、エミリアーノ・サルバドールに捧げてキューバン・ジャズのレジェンド、ガブリエル・エルナンデスが書いた曲。アロルドのピアノがやはり典型的にキューバン〜サルサっぽい。これと続くラスト「ソー・ワット」だけがこのアルバムでの他作曲。
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