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2019/05/15

ベイビー、ハウ・ロング

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どうしてこんなに好きなのか、ダン・ピケットのやる「ベイビー・ハウ・ロング」。いやあもうなんどもなんどもくりかえし聴いてしまう。リロイ・カーがオリジナルのこのブルーズ・クラシックの数多あるヴァージョンのなかで、たぶんいちばんの好物がこのダン・ピケットのだな。いや、たぶんじゃなくて間違いない。

 

そもそも1991年の P ヴァイン盤であるダン・ピケットの『ロンサム・スライド・ギター・ブルーズ』を新宿丸井地下のヴァージンメガストアで買うまで、ぼくはこのスタンダード曲を聴いたことがなかったはずだ。この CD だって、ダン・ピケットという名前だって、なにひとつとしてちっとも知らずにこれを買ったのは間違いなくジャケットの雰囲気のおかげ。

 

それで買って帰って自宅で聴いて、1曲目の「ベイビー・ハウ・ロング」で、な〜んて魅力的なブルーズ・マンなんだ、な〜んて魅惑的なブルーズ・ソングなんだろうと感激しちゃったのだ。実際、ダン・ピケットのやる「ハウ・ロング」は群を抜いてすばらしいと、いまでも聴くたびに感じる。むかしと違っていまはたくさんのヴァージョンを知っているけれど、それでもね。

 

ダン・ピケットの「ハウ・ロング」は、リロイ・カーのオリジナルとはずいぶん違う。メロディ・ラインも微妙にユニークだし、歌詞なんて「ハウ・ロング」というリフレイン部以外はまったくのオリジナルと言ってさしつかえないほど独自のものだ。ま、歌詞にかんしてはほかのいろんなブルーズ歌手もリロイのオリジナルにとらわれず独自展開を聴かせているけれど。ほかのブルーズ・ソングでもね。

 

それにダン・ピケットの声、これがまた実にいい。独自の塩辛いトーンが、この、パートナーが去っていったあとの人間のさびしさ、わびしさ、孤独感をいっそう強調しているかのようで、本当に味があるよなあ。またヴォーカル・ラインは長調なんだか短調なんだかわからない具合にさまよっているのもイイネ。出だし二回目の「ハウ・ロ〜ング」を聴いてみて。

 

それにギターがまたいいね。高音弦をスライド・バーですべりラインを奏でながら、中低音弦でザクザクと刻んでいるバランスは絶妙。ダン・ピケットもいかにもカントリー・ブルーズ・マンだというだけの典型的なパターンではあるけれど、この「ハウ・ロング」では実に絶妙だ。リズムの刻みかたは力強くもあって、哀しく切なく泣いているように震える高音弦スライドと好対照。

 

曲の途中のワン・コード部で、スライド・バーを使いビョ〜ン、ビョ〜ンと一音をくりかえしながらモーダルに展開するあたりも見事だ。そのあいだ、上物のヴォーカル・ラインはしっかりメロディアスに動くのだが、モーダルなギター・フレーズ土台は、ブルーズとはスケール・ミュージックなのだということを(たぶん意識せずに)示してくれてもいる。

 

ダン・ピケットは、「ベイビー・ハウ・ロング」を含む1949年8月23日の全18トラックがすべてのブルーズ・マンだけど、リロイ・カーを焼き直したその一曲の、異様に鈍く輝く宝石のおかげで、ぼくのなかでは永遠に忘れられない大きな存在となっていて、ぼく自身の心境をこの「ハウ・ロング」に重ね、あぁ、こんなふうにギターで弾き語れたらなあと思うヒーローのひとりなんだよね。

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