ジョエル・ロス登場
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ブルー・ノートからデビューしたばかりのジャズ・ヴァイブラフォンの新人ジョエル・ロス。そのプレイぶりは、ハーモニー面でもリズム面でもチャレンジングだ。ジャズ的なスリルに満ちたデビュー・アルバム『キングメイカー』(2019)は、ヴァイブラフォン+アルト・サックス+ピアノ・トリオのクインテット編成だけど、めくるめくようなエモーショナルな演奏で聴き手をグイグイと世界に引きずり込むパワーを持っている。
ジョエル・ロスのことをブルー・ノートは前々からプロモートしていて、まだデビューもしておらず一曲も聴けない状態の新人としては異例の大きな扱いだった。デビュー作『キングメイカー』のリリース予定日が決まると会社の推しっぷりにも一層熱が入り、ぼくも毎晩(のように、ではなく文字どおり毎晩)ツイートを読んでいたから、もうすっかり聴く気、買う気満々で、実際リリース日に Spotify で聴いて、たしかにこりゃすごいとうなって、速攻で CD も買った。
『キングメイカー』をお聴きいただければわかるように、ジョエルのマレットさばきは超高速。しかも寸分の狂いもなく極めて正確だ。さらにかなり熱情的な演奏ぶりで、気持ちが入るとグングン高揚し、同じくエモーショナルなアルト・サックス(イマニュエル・ウィルキンス)と一体化してクインテットの演奏全体がかなりの熱量を帯びる。かと思うと、同時にどこか醒めたクールなアティテュードも感じるよね。
ヴァイブラフォンのジョエルと一体化した演奏ぶりという意味では、ドラマーのジェレミー・ダットンもかなりすごい。複雑なポリリズムをひとりで難なく叩き出していて、多彩なドラミングで演奏に躍動感を与えているのだが、リズムの変化においてジョエルと一体化しつつどんどんチェンジしているのがわかる。
アルバム『キングメイカー』のぼくにとっての快感の肝は、この三位一体、ヴァイブラフォン、サックス、ドラムスの重なり合いにある。必ずしも一体化せず、異なったまま重ねたりもして、特にジョエルがひとりでバンドの演奏にぶつけるように異リズムで演奏していると思うんだ。それでいてジョエルもバンドも違和感なくスムースにこなしているよねえ。すごいことじゃないかな。バンドの演奏に対しジョエルひとりが異をレイヤーしていくというのはハーモニー面でもそう。
デビューしたての新人でありながらヴァイブ・ヴァーチューゾでもあるっていうのは、たとえば5曲目「イズ・イット・ラヴ・ザット・インスパイアズ・ユー?」でもよくわかる。ここではサックスとピアノを抜いたヴァイブラフォン・トリオでの演奏だから、もっぱらジョエルの超絶技巧に焦点が当たっている。聴きながら、なんてすごいんだ、しかも爽快だ、とうなっちゃうなあ。ジェレミーのドラミングにも要注目。ふたりで突っ走っている。
クインテットの演奏も、ジョエルひとりの演奏をとりだしても、多彩でチャレンジングな『キングメイカー』。ぼくがことに注目するのはリズム面での斬新さ、おもしろさだけど、和声面でもユニークで、収録曲もほとんどがジョエルの自作でありかつ、なんとプロデュースまでやっている。ヴァイビストとしてスケールが大きいというだけじゃない、トータルな音楽家としてのデカさを感じるね。
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