サックスはジャズのイコン・サウンドだ
https://www.udiscovermusic.com/stories/50-best-jazz-saxophonists/
この『The 50 Best Jazz Saxophonists Of All Time』と題する記事、2018年12月付で、だからちょっと前のだけど、つい最近見つけて読んでみた。50人のランキングには異を唱えたくなるところもあるけれど、全体的にはなかなかよくできた内容じゃないかと思うんで、おヒマなかたはちょっとチラ見だけでもどうぞ。
それになんたってジャズのヴォイスはサックスであるという、その見方には100%同意したい。まさしくそうだよね。楽器の発明者アドルフ・サックスはお墓のなかでさぞやビックリして、そして喜んでいるに違いない。楽器発明時にまだその姿がなかった新興音楽ジャズでこれだけ重宝される楽器になるとはねと。
まさしくサックスはジャズ・ミュージックを象徴する最大の「声」だ。もっとも、ジャズ誕生時のバンド編成にサックスはない。古典的ニュー・オーリンズ・ジャズでは、トランペット(コルネット)、トロンボーン、クラリネットの三管が一般的で、サックスが使われることは少ない。
ジャズでサックスが起用されはじめるのは、上掲記事にあるようにビッグ・バンド時代からじゃないかとぼくも思う(記事では「ビッグ・バンド・スウィング」となっているが、スウィングと書くと誤解を産むと思うので要注意だ)。つまり、ジャズにおけるサックスは1920年代前半ごろから存在を確たるものとした。
そしてその後のジャズの歴史は、しばしばサックス奏者が変えてきたし、支えてもきたのだ。ジャズにおける最初の偉大なサックス奏者、インヴェンターといえるのは、実はコールマン・ホーキンスじゃなくてシドニー・ベシェじゃないかと思うんだけど、ソプラノ奏者だったので影響のおよびかたがストレートじゃなかった。のちのジョニー・ホッジズなんか、あきらかにベシェの系譜下にあるとはいえ、抽象化された影響だ。
だからそういった点も考えあわせると、やはりホークこそが第一人者だったと見てもいい。ちょうどジャズ・トランペット界におけるルイ・アームストロングみたいなもんで、影響をこうむっていない人物を見つけるほうがむずかしく、またサックスをジャズのメイン・ヴォイスにしたという点でも史上最大の貢献をはたしたと言える。
ルイ・アームストロング/ビックス・バイダーベックの対比がサックス界にもあって、ホークに対比されるのがもちろんレスター・ヤング。レスターのばあい、たんにいちスウィング・テナー奏者というにとどまらず、モダンなハーモニー感覚と、コード分解も用いる斬新なフレイジングで、チャーリー・パーカーをはじめ多くのモダン・ジャズ・サックス奏者の範となった功績も絶大。
モダン・ジャズ界のコンボ編成では、サックス入りのワン・ホーン・カルテットか、トランペッターをくわえた二管クインテットの演奏が最も一般的だし、(あまりジャズをご存知ない一般のみなさん、すなわち世間一般的に)ジャズってどんな感じの音楽?っていうおおざっぱなイメージもそんな編成でのモダン・ジャズでできあがっているように思う。
だからサックスの占める比率や持つ意義はかなり大きいと言えるし、さらに大切なことは、ジャズ(やそこから流れたリズム&ブルーズ系でも)ではサックスの発音が特異だ。これはほぼジャズとその流れを汲む音楽にしかないといってさしつかえないサウンドというか音色で、シドニー・ベシェ、コールマン・ホーキンス、ジョニー・ホッジズなどがつくりあげた、あの太く丸いゴッツイ音、あれこそジャズの声なのだ。ほかの音楽におけるサックスはあんな音じゃないですよね〜。
だから、同じ系統の音色を持つモダン・ジャズ・サックスのチャーリー・パーカーもソニー・ロリンズもジョン・コルトレインも、ハーモニー感覚とフレーズの組み立てはレスターから来るものを学びながらでありつつ、サウンド・イメージとしては丸く太い方向性を維持した。
そんなサックス(だいたい世間的にはアルトとテナーだろう)の音で、ジャズという音楽のイメージができあがっていると言っていいんじゃないかと思う。たとえばマル・ウォルドロンの「レフト・アローン」でも、ソニー・クラークの「クール・ストラティン」でも、ジョン・コルトレインの「セイ・イット」でも、これぞジャズだ!と言える象徴的サウンドの中心にああいったサックスがあるんだということになるね。
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