定型のない軽妙なロバート・ウィルキンス
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ローリング・ストーンズが下敷きにした戦後録音もありはするものの、やはり第二次世界大戦前のメンフィス・ブルーズ・シーンでこそ重要人物だったロバート・ウィルキンスが、その大都会に移住してきたのは1915年のこと。すでにギターで弾き語っていたらしい。ウィルキンスの戦前録音のすべてを、ぼくは1990年の P ヴァイン盤 CD『プロディガル・サン〜放蕩息子』で愛聴している。曲順は違えど上の Spotify リンクは同じ中身のアルバム。全17トラック。これ以外には1964年のゴスペル・アルバム一枚があるのみのひとだ。
ヴィンテージ録音(1928〜35年)に話を限定すると、ロバート・ウィルキンスのブルーズにはほぼ定型がない。ほとんどがひとりでの弾き語りであるカントリー・ブルーズの世界ではそれがあたりまえだけど、それにしてもウィルキンスの融通無碍さはなかなかすごい。推測するにたぶんまず歌があって、それに合わせてギター演奏もついていっているだけだから、そしてその歌とは(だらっと続く)バラッド的なお話だから、ということなんだろうなあ。
とはいえ、計17トラックのうち三つ「ダーティ・ディール・ブルーズ」「ブラック・ラット・ブルーズ」「ニュー・ストック・ヤード・ブルーズ」は定型の AAB 12小節3コード形式。これには理由がある。このときのセッションでだけ二名の伴奏者がいるからだ。実にカチッと定型化しているよねえ。それにしてもスプーンが付くなんて(カチャカチャという音がしている)、いかにもメンフィスらしい土地柄だ。
とにかくバンドというか複数名でやると定型化するというのはわかりやすい話だ。戦後もひとりで弾き語ったカントリー・ブルーズ・マン、たとえばライトニン・ホプキンスなんかはやっぱり小節数が伸び縮みしているんだもんね。しかしだいたいが一小節単位でのことで、ロバート・ウィルキンスのばあいは、半拍伸びたりしてワン・コーラス(という概念もたぶんないのだが)13小節半だとか、あるいは15小節だとか、そんなのだってある。
上でも書いたけど、伝承的な物語歌、すなわちバラッドの世界では、まあ詩として世に出るばあいはある程度フォーマットがあるだろうけれど、それでも現場で歌って聴かせるのにかたちはいらない。その場その場で観客の反応も見ながら自在に端折ったり延長したりくりかえしたりするわけで、それもちょっとだけとか大幅にとか、よくあることじゃないか。
ロバート・ウィルキンスも最初のレコードである SP 両面の「ローリン・ストーン」2パートがそこそこのローカル・ヒットになって、ラジオ出演した際この曲にリクエストの電話がじゃんじゃんかかってくるためやめられず、ついに番組の一時間ずっと「ローリン・ストーン」だけ歌っていたという(ウソかホントかの)エピソードまで残っている。お話とはそういうもんだね。
アメリカの黒人ブルーズが(発祥時に?プリ・ブルーズ的な部分で?)けっこうバラッドと関係があったとは、ぼくも以前から書いていることで、それは戦後のマディ・ウォーターズの弾き語りなんかにも姿を現している要素。ましてやミシシッピのど田舎ハーナンドー生まれで戦前のメンフィスで活動した弾き語りのロバート・ウィルキンスなら理解しやすいことなんだよね。
ローリング・ストーンズがとりあげた「ザッツ・ノー・ウェイ・トゥ・ゲット・アロング」(プローディガル・サン)も見事に変型で、というか変型とか定型とかいう概念でくくれないのがロバート・ウィルキンスで、歌がまずあって、歌いながらそれにあわせて拍数がかなり半端になっている。それでここまで結果的に構成がちゃんとなっているように聴こえる組み立て能力はすごいね。歌もギターも軽妙洒脱だ。
また、「ゲット・アウェイ・ブルーズ」も傑作で、出身地であるミシシッピのブルーズっぽい感覚の一曲。ヴォーカルも力強いが、ギターのパターンに注目。フリーなワン・コードに近い展開で、その上、ジョン・リー・フッカー的な二拍三連に近い弾きかたもあるかと思えば、低音弦でブギ・ウギ・ピアノの左手みたいに動いたりもする。
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