フィルモアのマディ1966
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マディ・ウォーターズの『オーソライズド・ブートレグ』(2009)。1966年11月にサン・フランシスコのフィルモア・オーディトリアムに出演した三日間の記録から抜粋編集されたライヴ盤だ。ところで、このジャケットで「オーソライズド・ブートレグ」と題するライヴ・アルバムがたくさんいろんな音楽家ので出ているのは、すべてウォルフガングズ・ヴォールトの音源ってことだよね。このブログでもいままでにネヴィル・ブラザーズのとか、いくつか書いた。
1966年フィルモア・ライヴでのマディはギターはまったく弾かずヴォーカルに専念。ギターが二名にリズムと、あとはやっぱりシカゴ・ブルーズらしくハーモニカが大々的にフィーチャーされている。この『オーソライズド・ブートレグ』でマディの次に目立っているのが電化アンプリファイド・ハープのジョージ・スミスだ。ソロは彼がほぼひとりで吹きまくる。
ギターの二名では、マディのメンバー紹介によればジョージア・ボーイ(ルーサー・ジョンスン)がセカンド・リードでサミュエル・ロングホーンがリードということだけど、音だけ聴いてどっちがどっちと判別できる耳はぼくにはなし。ギター二本がからみあっていたりする部分はまったく区別できない。スライドでソロをとったりするのはどっち?もわからず。
このアルバムは、11月4〜6日の記録だけど、4日から四曲、5日から六曲、6日から5曲を収録し、日付順には並べていないよね。テープは三日間のすべてを記録してあるんだろうと思うんだけど、でもぜんぶ出してほしいとは思わない。このアルバムを聴けば三日間とも大同小異だったとよくわかるからだ。レパートリーも、抜粋編集したこのアルバムですらかなり重なっているし内容もほぼ変わらず。だから三日間トータルの内容をフル・リリースしたところで冗長になってしまうだけだろう。
だから『オーソライズド・ブートレグ』は、これでよく編集された好アルバムと言えるんだね。さて、このアルバムを聴いて感じるのは、大きく言って二点。歌手マディの存在感のデカさ、ブルーズがロックとどう違うのかという決定的なポイント、のふたつだ。前者についてはあまり言を重ねなくていいだろうと思う。マディのヴォーカル・パフォーマンスの見事さを聴いてほしい。声もよく通るハリのあるトーンが伸びやかによく出ていて、しかもナチュラルでスムース、さらに大きな余裕も感じるゆったりさ。
たとえば5日分のラスト「ガット・マイ・モージョー・ワーキング」。最終盤でストップ・タイムが入りバンドがパッと止まった時間に、マディはひと呼吸おいてから「フ〜ン!」と言う。それに続いて「ジャスト・ドント・ワーク・オン・ユー」を歌う。それでバンドがエンディングを演奏するわけだけど、その「フ〜ン!」の余裕綽々の憎たらしさったらないね。こんなパフォーマンスは1950年代のマディでは聴けなかった。ギターを弾かずともヴォーカルだけで自己の存在の大きさを見せつけられるようになっているじゃないか。
二点目。ブルーズが(ブルーズ・)ロックとどう違うのか?という決定的な音源に、このマディの『オーソライズド・ブートレグ』はなっていると思うんだよね。マディ・バンドのこの粘りつくような、後ずさりしながら前進するような(おかしい?)、決して軽快ではないブルーズ・ビートを聴いてほしい。こういったトリモチを敷きつめた部屋を歩いているかのようなノリはブルーズ特有、というかアメリカ黒人音楽特有のものなんだよね。
こういったブルーズ・ビートの感覚は呼吸みたいなもんだから、学習して身につけることはむずかしい面もあると思う。ロック界にいる白人フォロワーたちがどんなにがんばっても到達できない独特の粘り気と重さ、ノリがこの1966年フィルモアのマディ・バンドにはある。こういった音楽は、一聴、とっつきにくいものだ。ロック化されたブルーズのほうがわかりやすく聴きやすい。しかし、一度ヤミツキになれば逃れられない魅力が米黒人ブルーズにあるんだというのもまた事実。いったん聴くツボをつかんでしまえば、あとはひたすら気持ちいい。1966年フィルモア・ライヴでのマディ・バンドもまたそうなんだ。
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