ショーロ・ルネサンス?〜 トリオ・ジュリオ『ミーニャ・フェリシダージ』
https://open.spotify.com/album/6E882EOacKWLz5OH0MyHgo?si=kTZvvkVxSZqxtJ6QuBQAyA
これも bunboni さんに教わったものです。
https://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2019-01-21
オーソドックスな古典ショーロをやるトリオ・ジュリオの2017年デビュー作『ミーニャ・フェリシダージ』がとてもいい。曲もアルバム全体も(いい意味で)古くさい音楽。このことは、たとえば曲間の空白時間でもわかる。ある時期以後の音楽アルバムではあまり間合いをおかずどんどん次の曲が流れてくるけれど、『ミーニャ・フェリシダージ』では曲と曲のあいだにたっぷりポーズがおかれている。むかしの音楽レコードみたいで、最近の傾向にすっかり慣れちゃっているから、最初は一瞬オリョ?止まった?と感じたほど。
トリオ・ジュリオの『ミーニャ・フェリシダージ』は、兄弟三人によるバンドリン、ギター、パンデイロのトリオ編成を基本に置きつつ、三人での演奏曲もあるけれど、多くのばあいゲストを曲によって変えながらどんどん迎えて、自作曲をやっているという感じかな。そんな自作曲も、どこも現代ふうでない古典的意匠で、ぼくなんかは好感を抱く。いかにも伝統と現代がひとつながりで接合しているブラジル音楽界ならではだね。
アルバムの最大の目玉は、やはり管楽器奏者を複数迎えてやっている8、10曲目かな。そのメインはアキレス、エヴェルソンのモラエス兄弟なんだ。ね、憶えているでしょ、例のイリニウ・ジ・アルメイダ曲集の中心だったふたりだ。そのときフィーチャーされていたオフィクレイドをエヴェルソンは10曲目で吹いている。8曲目ではトロンボーン。
オフィクレイドなんて、そのイリニウ曲集まで完全に忘れ去られた楽器になっていたものだし、イリニウの得意楽器だったからエヴェルソンは復活させたんだけど、それをトリオ・ジュリオに客演しても演奏しているのは、あるいはひょっとしたらエヴェルソンのほうからもちかけたアイデアだったかも。トリオ・ジュリオの三人がオフィクレイドを提案できるかどうかわからないし。
実際その10曲目ではアレンジ担当がエヴェルソンとクレジットされている。作曲はほかの曲同様マルロン・ジュリオだけど、アレンジだけエヴェルソンがやって、しかもグルーポ・オス・マトゥトスがまるごと参加していて、エヴェルソンがオフィクレイドを吹くんだから、トリオ・ジュリオとオス・マトゥトスの共同作業によるワン・トラックと言っていいかも。実際、おもしろい仕上がりになっている。
(オス・マトゥトスじゃないものの)同じくアキレスとエヴェルソンが参加した8曲目も楽しいし、管楽器のいないシンプルなトリオ編成のトリオ・ジュリオにして、なんだか実はこのアルバム『ミーニャ・フェリシダージ』はなかなかヴァラエティに富んでいる一枚と言えるかも。いろいろ流れてきて楽しいし。それに10曲ぜんぶがメンバーの自作だけど、それもきわめて古典的でオーソドックスなショーロ曲の創り。それをストレートにやって、過去の楽器オフィクレイドも使ったりする。
つまりは、ある種のルネサンス的な意味合いすら感じるこの『ミーニャ・フェリシダージ』だけど、当のトリオ・ジュリオの三人はそんなことをあまり考えすぎず、ただやりたい音楽を自由にのびのびとやっているなと感じられる素直さも好感度大。古典ショーロ好きじゃないと楽しめない作品だけどもね〜。
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