岩佐美咲坂本冬美
坂本冬美の ENKA シリーズ三枚のことを書きました。すべて有名演歌スタンダード曲のカヴァーなわけですから、若手演歌歌手わさみんこと岩佐美咲も歌っているものが多いのは当然のことでありますね。わさみんだけでなく、演歌歌手なら冬美の ENKA シリーズとレパートリーがダブるひとがほとんどでしょう。「舟唄」「津軽海峡・冬景色」「北の宿から」「おもいで酒」「石狩挽歌」「女のブルース」など、やっていない演歌歌手を見つけるほうがむずかしいかも。
そんなわけで、今日は冬美の ENKA シリーズで歌われている曲のうち、わさみんも歌っているものをピック・アップしてちょっと比較してみよう、それでふたりの持ち味の違いといったところを考えてみよう、それで冬美ちゃんにはなにも言うことなどないけれど、今後のわさみん向けのなにかにでもなる内容になればな、と思いキーボードを叩いています。
まず、冬美の ENKA シリーズにあるもののなかでわさみんも CD や DVD で歌っている曲を一覧にしておきます。冬美のアルバム発売収録順。
・石狩挽歌
・津軽海峡・冬景色
・越冬つばめ
・北の宿から
・女のブルース
・大阪ラプソディー
・空港
・火の国の女
やはり最新作『ENKA III 〜偲歌』収録のものが目立っていますが、でも総数ではあんがいすくないですね。いや、多いのか。わかりませんが、冬美の歌はどれも見事なものです。最近ずっと書いていますけど、近年の冬美の円熟といったら舌を巻くものですよ。おそろしいほどと言ってもいい。しかしおそろしいということばを使うなら、いま24歳のわさみんだってそうなんです。なんたってわさみんは歌の天才ですからね。デビュー期から完成されていました。
たとえば「越冬つばめ」。この曲なんか、わさみんヴァージョン(『リクエスト・カバーズ』収録)のほうが冬美のよりいいと思うんですね。冬美の ENKA シリーズとわさみんとの最大の違いは、冬美のほうはアレンジにかなりの工夫が凝らされているというところ。わさみんのカヴァーのばあいはいつもストレートに、だいたいのばあいオリジナルのアレンジを踏襲しているので、そこも大きな差異になってきますね。
「越冬つばめ」でもそうで、ぼくが聴くところ、わさみんヴァージョンの素直な伴奏のほうがこの曲の味をより活かすことにつながっているなと聴きます。歌手のヴォーカル表現法も、冬美はわざとグッと抑えた、大人のナイーヴさを出すことに腐心していますが、わさみんのほうはもともと持っている本能的ストレートさでそのまま歌っているのが好感度大です。
しかもわさみんの「越冬つばめ」が収録されている『リクエスト・カバーズ』はデビュー・アルバムなんですね。2013年のリリースでした。わさみんがいまの完成形に到達したのは、ぼくの見るところ2018年ごろからですから、その五年も前のリリースだったんです。歌手デビューが2012年ですからね。それなのにここまで歌えているなんて、ああ、天才…。こういったところは凡百の歌手がわさみんに太刀打ちできない部分です。冬美は平凡な歌手ではありませんが、それでもああ…。
わさみん側が素直でオリジナルに忠実なアレンジを採用することが多いのが結果的に功を奏しているのは、「越冬つばめ」だけでなく、ほかはたとえば「石狩挽歌」でもそうです。冬美ヴァージョンの「石狩挽歌」はちょっとアレンジこねくりすぎじゃないかと思うんですね。歌手の歌いかたも無表情にもっと淡々とやったほうがいい。それでこそ「石狩挽歌」という曲のフィーリングが伝わります。その点、わさみんヴァージョンは完璧で文句のつけようがないです。発売も2017年なので、完成に近づいていると言えます。
最初からかなり完成度が高かったわさみんであるとはいえ、しかしたとえば「津軽海峡・冬景色」なんかは物足りません。2013年の「もしも私が空に住んでいたら」のカップリングだったんですけど、う〜ん…、これは、まあアレンジもイマイチですがわさみんのヴォーカルがまだまだ幼いと言わざるをえません。逆に言えば、近年はグッと成長し声そのものにも色と艶が増すようになっているということです。そこから振り返れば、この「津軽海峡・冬景色」はまだまだですね。断然、冬美ヴァージョンに軍配が上がります。
同じ2013年のわさみんでも、「津軽海峡・冬景色」と「越冬つばめ」でこのような差がどうして生まれているのか、ちょっとじっくり考えてみないとわからないですね。それにぼくは当時のわさみんのことをなにも知りません。曲そのものがわさみん向きだったかどうかという相性の問題もあったと思います。同じ年の『リクエスト・カバーズ』にある「ブルー・ライト・ヨコハマ」なんかは見事な歌唱ですしね。
上でも書きましたが、冬美の ENKA シリーズ最大の特色は(ヴォーカルふくめ)アレンジの工夫なんですけど、結果的にそうとう見事なことになっているものがありますね。わさみんも歌っている「大阪ラプソディー」なんかもそうです。冬美のはどうしてこんなにチャーミングなのか。アレンジャー坂本昌之がすごいのか。わさみんがファースト・コンサートで歌った「女のブルース」もそうですね。冬美ヴァージョンはどっちも新作『ENKA III 〜偲歌』に収録されています。
「大阪ラプソディー」は、わさみんも歌唱イベントなど現場でくりかえしなんども歌っています。大阪が舞台になっている歌であるということで、ぼくもよく出かけていく大阪でのイベントでは本当によく歌われます。近年のわさみんヴァージョンは、やはり声そのものに成熟を感じる内容で、現場で聴いて、ため息が出るほど見事なものになっているんですね。
がしかし、アレンジが同じですよね。これはしょうがないことなんですけど、CD 収録などの際に作成されたカラオケをそのまま使いまわしているわけです。だからこそ、伴奏がずっと同じものであるからこそ、その上に乗るわさみんの歌唱技巧の上達がわかりやすい、伝わりやすいという面はあります。けれども、歌手がここまで大きく成長しているんだから、伴奏のオケもそろそろ歌手の成熟にあわせて新しくしてほしいという気分だってぼくにはあるんです。
わさみん現場でいくら聴いてもそんなふうには思いませんが、冬美の「大阪ラプソディー」その他を CD で聴いちゃったら、そのおもしろさ、魅力に降参し、振り返って、ああこれはわさみんも歌っているじゃないか、わさみんのもいいけれど、アレンジというか伴奏がそのままだからちょっぴり残念だなと思い至ったんですね。冬美ほどの実力の持ち主だからあんな斬新なアレンジでも歌いこなせるんであって…、と思われるかもしれませんが、歌手としての資質を考えたらわさみんのほうが新世代ですからね。
わさみんが歌い込んでいる曲の数々は、そろそろオケを録り直していただきたいと、斬新なおもしろいチャーミングなアレンジでやらせてみてもいいのではないかと、それが冬美の ENKA シリーズを聴いていてのぼくの率直な感想なんです。はっきり言えば、こんな斬新なアレンジを施してもらえる冬美がうらやましくてたまりません。わさみんのオケはずっと同じですから。いろんな問題というか制限があるんだろうなとは想像できますけれどもね。
また、冬美の ENKA シリーズにあってわさみんがいまだ歌っていないなかには、ちょっとわさみんに歌わせてみてほしいと思える曲がいくつもあります。『ENKA I 〜 情歌』にある「大阪しぐれ」(都はるみ)、『II 〜哀歌』にある「雨の慕情」(八代亜紀)、「アカシアの雨がやむとき」(西田佐知子)、『III 〜 偲歌』にある「ふりむけばヨコハマ」(マルシア)などがそうですね。
それらの曲は、ぼくの見るところ、いまの2019年のわさみんの資質にピッタリ似合います。間違いないと思います。冬美の ENKA シリーズ三枚トータルのプレイリストを以下に貼っておきますので、Spotify は一ヶ月15時間までなら無料で聴けますので、ぜひちょっと耳を傾けてみてください。わさみんが歌うに際しては、それら冬美ヴァージョンでアレンジャーをやっている坂本昌之さんにアドバイスいただけることでもあれば、望外の喜びです。坂本さんは本当にすごいアレンジャーです。
https://open.spotify.com/playlist/2ZtZnLHa9HU9XI0rGSTBwC?si=gYDKYfbRS8-6CVI1j7IQbw
冬美の ENKA シリーズについては、いままでにどんどん Black Beauty に書いてきていますので、ご興味を持たれたわさみんファンのみなさんはちょっと覗いてみてくださいね。
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