ドナルド・バードの『エレクトリック・バード』から『エチオピアン・ナイツ』まで三枚まとめて
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ドナルド・バード。1969年の『ファンシー・フリー』の次に大きなことは、なんたって73年リリースの『ブラック・バード』だから、そのあいだにある三つのアルバム(といっても当時はリリースされなかったものも)『エレクトリック・バード』(70)、『コフィ』(69〜70/95)『エチオピアン・ナイツ』(71/72)について、まとめてざっと扱っておきたい。『エチオピアン・ナイツ』はかなりカッコイイから単独記事にしてもよかったんだけど。
じゃあそのカッコいい『エチオピアン・ナイツ』のことを最初に書こうっと。このアルバム題や「皇帝」などの曲題は、もちろんラスタファリズムから来ているものだろう。音楽的にこのアルバムがジャマイカやレゲエと関係あるかどうかわからないが、1972年だし、ドナルド・バードやブルー・ノート陣営としても意識したムーヴメントだったのだろう。
三曲のアルバム『エチオンピアン・ナイツ』では、1曲目「ジ・エンペラー」と3曲目「ザ・リトル・ラスティ」がめっちゃいい。これの次作『ブラック・バード』からしばらくのあいだ、ラリーとフォンスのマイゼル兄弟がドナルドのアルバムをプロデュースするようになり演奏にも参加して、明確なファンク路線に傾いているが、マイゼル兄弟なしですでにこれだけのものが仕上がっているとわかる。
いや、予兆というか、もうじゅうぶんカッコイイよね。「ジ・エンペラー」でもエレベの太い音がリフを弾きはじめるが、こんなのはそれまでのドナルドの音楽にはなかったものだ。続いて出るドラムスもかっこよくグルーヴィ。エレキ・ギター二台がからんでリフを演奏するあたりで、もう脳天シビレちゃう感じだなあ。もうね、なんたってこのリズムというかグルーヴですよ、聴きものは。カァ〜ッコイイじゃないですか!
それはアルバム・ラストの「ザ・リトル・ラスティ」でも同じ。しかもこれは曲というより、たぶんただの即興演奏だよね。リズムが順番に出て重ね、ソロをみんながまわしているだけだと思う。あらかじめの決めごとはなにもなかったかも。それでこれだけのグルーヴが生まれるのは個人の力量もあるし、時代もあるし、ドナルド・バードにはこういったソウル/ファンク系の資質が本来あったと見たほうがいい。いやあ、カッコエエなあ〜。この曲のギター・ソロはデイヴィッド・T・ウォーカー。
レア・グルーヴ/アシッド・ジャズ観点からもめちゃめちゃグッドな『エチオピアン・ナイツ』だけど、それに先行する二作『エレクトリック・バード』『コフィ』は、一部を除きイマイチ物足りない。というのはグルーヴを感じるかどうかという点でだけどね。でもいい部分だってあるし、また同時にかなり興味深い。
個人的な最大の関心ごとは、1970年5月録音の『エレクトリック・バード』が、完全にマイルズ・デイヴィス『ビッチズ・ブルー』を意識したものになっているというところ。マイルズのは録音が1969年8月だけどレコード発売が70年4月だった。さらにその二枚組にも関与したギル・エヴァンズのアレンジ手法も大きくとりいれている。
なんたって1曲目「エスタヴァニーコ」のホーン・アレンジを聴いてみて。どう聴いたってギルでしょ。実際に手がけているのはフェンダー・ローズで参加のデューク・ピアスンみたいだけど、このフルートなどの使いかたといい、あからさまにギル・メソッドじゃないか。こういったちょっと大がかりなホーン・アンサンブルは『ビッチズ・ブルー』にはないけれど、ギルなら当時書きそうな譜面で、サウンドの響き、それのなかに立ち上がってくるオープン・ホーンのトランペットといい、ギル&マイルズの仕事をそのまま下敷きにしているのは間違いない。
そのほか『エレクトリック・バード』は全体的に1968/69年ごろのマイルズ、特に『ビッチズ・ブルー』からアイデアを借用している音楽で、ここまで露骨だと感心するしかない。あるいは、この当時のジャズ界でマイルズ&ギルの影響力がそれだけ大きかったという証左でもあるね。アルバム・ラストの「ザ・デュード」はかっこいいグルーヴァーだ。これだけはマイルズよりいい。
録音当時は未発表だった『コフィ』。1曲目のアルバム・タイトル曲で出るフルートが印象的だけど(ルー・タバキン)、アルバムで最も魅力的なのは2曲目の「フフ」だね。このリズムがいいと思うよ。リム・ショットかんかんやりすぎ(つまり大歓迎)のアイアート・モレイラも楽しい。そのせいか、数年後のリターン・トゥ・フォーエヴァーを想起させるところのあるドラミングとリズム・スタイルだ。だから好きなのかなあ。5曲目「ザ・ラウド・マイノリティ」も、うねるホーン・リフがいいね。トランペット・ソロもキレているし、リズム・セクションも魅力的だ。
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