ポップでファンクなドナルド・バードの『125番街』
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ドナルド・バードの『アンド・125th・ストリート、N.Y.C.』(エレクトラ、1979)は、基本的に前作『サンキュー…フォー F.U.M.L.(ファンキング・アップ・マイ・ライフ)』の創りを踏襲している。タイトなファンク・ドラミングにきめきめスラップ・ベース、ソリッドなエレキ・ギター・カッティングに電気キーボード類(ここではクレア・フィッシャー)。その上にヴォーカルとトランペットが乗っかっているという、そのまま。
しかし大きな違いもあって、前作では全曲が弟子バンド、ブラックバーズの面々が書いたコンポジションだったのに対し、『125番街』ではほほすべてをドナルド・バード自身が作曲している。それでここまでできあがりが似てくるというのは、アレンジャーが同じウェイド・マーカスであることも肝だけど、ドナルド自身こういったファンクな曲創りを急速に身につけたということだろう。
『125番街』のほうには、ドナルドのトランペット・ソロをフィーチャーしたインストルメンタル・ナンバーも数曲ある。これも大きな違いだね。それらでは、かつてジャズ・トランペッターだった腕前を活かし、魅力的な演奏を聴かせていると言える。全曲ヴォーカル・ナンバーでソロのなかった前作との大きな差だ。全体的にはやはり歌ものが『125番街』でも多いけど、バランス重視型にシフトしているよね。
クレア・フィッシャーの鍵盤演奏だけを伴奏にしてドナルドが吹くラヴ・バラード「マリリン」のこの上ない美しさったらないね。ふんわりとやわらかいヴェールが降りているかのようでありかつキラキラした透明感にも満ちていて、屹立する孤高感もあり、こういったインストルメンタルはジャズでもないし、なんだろうファンカバラードとでも言ったらいいのか、いやあ、マジきれいですね。
同じくインストルメンタルな6曲目「ヴェロニカ」。こっちはちょっぴりビートが効いているが、やはり女性名を曲題にしているところといい、同じくラヴ・バラードとしていい曲想じゃないかな。ややジャジーさも加味し、都会の夜の雰囲気も漂っている。ドナルド独自のハーフ・ヴァルヴを多用したノート・ベンディングも聴けるし、ジャズ・バラードに近い演奏で、これも充実している。
これら二曲以外はファンク・ヴォーカル・ナンバーだけど、とっつきやすくノリやすいし、ジャズ・ファンクというよりロックやソウルに近いフィーリングもあって、しかも全体的にやはりかなりポップで親しみやすい。どこかで聴いたようなファミリアーなリフやフックも随所で多用されているし、それでいてリズムやサウンドはタイトでシャープでソリッド。とんがっている感じがせず丸いのが、ドナルド・バードの持ち味だね。
ドナルド・バード・シリーズはこれで終わりです。
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