ドナルド・バードの飛翔宣言 〜『ブラック・バード』
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さてさて、ドナルド・バードの『ブラック・バード』(1972年録音73年リリース)。ラリーとフォンスのマイゼル兄弟を迎え、いよいよポップ・ファンク路線へと本格転換した記念碑的アルバムだ。アルバム題は、ドナルドが大学で教えていた弟子バンドの名 The Blackbyrds から取っている。ハワード大学で教鞭をとっていたドナルドで、この後もそのかかわりあいで作品ができたりもしている。『ブラック・バード』は売れたので、その意味でもエポック・メイキングだった。
プロデュースが全面的に代わったということで、もう音づくりが前作までと比較して根本から変化しているよね。リズムやサウンドがいくらファンキーになっても、なんだかんだでジャズ的な即興のスリルをベースにしていた『エチオピアン・ナイツ』までに対し、『ブラック・バード』以後ではワン・リフの反復とシンプルなフレーズ・パターンを中心にポップに組み立てている。長めのアド・リブ的な展開はなしで、カッチリしたアレンジと構成でできている。
こんなふうにヴォーカルが入ることもそれまでなかった。歌っているのはドナルドとラリー・マイゼルを中心とする数名みたいで、しかもそれはいわゆる歌ではなく、ちょっとしたエフェクトというか雰囲気づくりみたいなフレーズだよね。ドナルドに歌わせたのはたぶんラリーだと思うけど、『ブラック・バード』の評判がよかったので、これ以後、あるいはラリーと別れても、ドナルドは歌い続けている。ハミングに近いようなものだとはいえ。
エフェクト的な使いかたといえば、ドナルドのトランペットやフリューゲル・ホーンだってそうなのだ。アルバムで本格ソロはなし。折々にはさみこまれているだけだよね。吹奏にどこまで自由が与えられていたかわからない面もあるけど、『ブラック・バード』全体やラリーがプロデュースしたほかの作品も聴くと、けっこう指定されていたのでは?と思えるふしもある。あ、そうそう、収録曲はぜんぶラリーが書いているんだ。アレンジもラリー。
それでラリーがかっちりした枠組みを考えて構成し、それに沿って音を足していったというのがとてもよくわかるできばえのアルバムだよね。どの収録曲も、ファンクの手法であるワン・リフのワン・グルーヴを根底に置き、ドラムス+エレベ+エレキ・ギター+鍵盤でそれを演奏させ、その上に効果的にドナルドほかのホーン陣とヴォーカルをからめてある。音楽にさわやかな空気を付与することに成功しているフルートも効果的だ。
ジャズ・ミュージック的にどんどん個人がソロをとってそれが複数人で連続するというような、そんな音楽の快感はアルバム『ブラック・バード』にはない。取って代わってここにある気持ちよさは、タイトでファンキーなワン・グルーヴに乗るダンスのそれだ。グルーヴ一発ですべてが決まる、そんな音楽だよね。聴いていて、ただそのノリに身を委ねればスリリング、そんなブラック・ミュージック本来のありように<もどった>だけ、と考えることだってできるね。
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