ミスター・サンバ 〜 シロ・モンテイロ
http://elsurrecords.com/2018/04/13/ciro-monteiro-a-bossa-de-sempre-2/
サンバというかブラジル音楽シーンは1940年ごろを境に変化しました。40年はカルメン・ミランダがアメリカ合衆国に渡った年で、その前、36年にマリオ・レイスが引退、37年にノエール・ローザが亡くなって、38年には若きルイス・バルボーザまでもこの世のひとではなくなってしまったんですから。大きな転換点というかピンチだったと言えるのではないでしょうか。
オフィス・サンビーニャ盤『永遠のボッサ』(2002)が編まれているシロ・モンテイロが活躍したのは、ちょうどそんなピンチの時期。デビューは1930年代末ですが、全盛期はやはり40年代前半だったと見ていいはずです。たぶん1942〜44年ごろじゃないですか、シロがいちばんよかったのは。
そんなことが、『永遠のボッサ』を聴いているとわかります。ちょうど14曲目「ラランジェイラのボタン」(Botoes De Laranjeira、1942年)のへんから歌がグッとよくなって、19曲目「黒人のサンビスタ」(Crioulo Sambista、1944年)まで続きます。その後は大編成オーケストラの伴奏をしたがえてのものになりますが、シロ特有の軽妙さ、サンバ・ジ・ボッサの感覚がやや薄れているかなという気がしないでもないです。
14〜19曲目の六曲のなかには、たとえば「偽りのバイーア女」(Falsa Baiana)のような大傑作があったり、「キスしてちょうだい!」(Beija-Me)も楽しいし、ユーモラスでファンキーなサンバの男性歌手ナンバー・ワンと言われただけのことはあるなとよくわかりますよね。女性のそれがカルメン・ミランダなら男性はシロ・モンテイロで決まりでしょう。
「偽りのバイーア女」https://www.youtube.com/watch?v=aKhPbVlw1UY
「キスしてちょうだい!」https://www.youtube.com/watch?v=QFTeg9GL0E4
カルメンやシロらのサンバは、軽妙洒脱で、カーニヴァル・サンバの現場とは必ずしもかかわりあわず、歌謡としてのサンバに重点を置いたようなものでした。1930年代後半からのサンバ・ショーロ、すなわち歌謡サンバのなかにショーロ感覚を活かしたようなものの流れをくむもので、実際バック・バンドはショーロのコンジュントがよくやりました。
男性サンバ歌手としては、マリオ・レイス、ルイス・バルボーザ、そしてシロ・モンテイロといった流れはそんな路線の代表的系譜だったと言えるはずです。もちろんフランシスコ・アルヴィス、オルランド・シルヴァ、ネルソン・ゴンザルヴィスといった流れもあって対照的ですけれど、個人的にはシロをこそミスター・サンバと呼びたいですね。
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