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2019/07/07

<故郷>へ連れ帰ってくれ 〜 ウィリー・ネルスンの新作に聴くカリブ海

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https://open.spotify.com/album/4eIsAOEVirxfsiQpwbhBpP?si=CdInUocPQpiOr7Ih23DwfA

 

こないだ息子ルーカス・ネルスンのバンドの新作をとりあげたでしょ。快作でした。
https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2019/06/post-eded22.html

 

これがまだまだヘヴィ・ローテイション盤の座から降りないうちに、父ウィリー・ネルスンの新作も届いちゃいました。題して『ライド・ミー・バック・ホーム』(2019)。これがなかなかおもしろいんです。ビリー・ジョエルの「素顔のままで」なんかもやっていますが、それよりなによりウィリー86歳という年齢を考えたら、これ、異常な充実度ですよ。ふだん年齢で音楽の若/熟を判断しないぼくですけど、この新作でのウィリーは声が若い!でも今日はそれを言いたいわけじゃありません。

 

単刀直入に。このウィリーの新作『ライド・ミー・バック・ホーム』には、鮮明なアバネーラ楽曲が三つあるんです。3曲目「マイ・フェイヴァリット・ピクチャー・オヴ・ユー」、8「ワン・モア・ソング・トゥ・ライト」、9「ノーバディーズ・リスニング」。アルバム全体はやはりカントリー・ミュージック作品に違いありませんから、そのなかにキューバ音楽要素がこれだけ混じり込んでいるというのは、驚くべきことなのか、あるいは当然のことなのか、どちらなのでしょうね。

 

8「ワン・モア・ソング・トゥ・ライト」、9「ノーバディーズ・リスニング」は今回の新作のための書き下ろしで、ウィリーとプロデューサーのバディ・キャノンの共作名義。「マイ・フェイヴァリット・ピクチャー・オヴ・ユー」は、2016年に亡くなったガイ・クラークのカヴァーですよね。そのオリジナルからしてカリビアン・テイストを持った曲でした。
https://www.youtube.com/watch?v=ZV-i1dwWq1I

 

没地がナッシュヴィルだったガイ・クラークもやはりカントリー界の音楽家でしょうけど、よく知っている種類の音楽じゃないので、カリビアン、キューバン・ミュージックとか、あるいはアバネーラ(がスペイン経由だったりもするかも?)とどんな関係があるのか、あまりよくわかりません。ですけれど、南部ニュー・オーリンズを経由してアメリカ合衆国とカリブ海とは隣り合わせなんですから。

 

これまたガイ・クラークがオリジナルの5曲目「イミグラント・アイズ」も、曲そのものはふつうの三拍子でアバネーラ舞曲じゃないですけど、間奏のギター・ソロ部にカリビアン/ハワイアン・テイストがわりと鮮明にありますよね。もっと正確にはテックス・メックス風味といったほうが近いのかもしれません。そういえば今回のこのウィリーの新作アルバム、全体的にどこか隣国メキシコの空気が香っているような気がして(特に和声面)、ウィリー自身の過去曲の再演である6「ステイ・アウェイ・フロム・ロンリー・プレイシズ」はジャズ・ナンバーになっているし、ホント、ごくふつうのカントリー・アルバムだとかたづけられないおもしろさです。

 

ジャズだって南部のクリオール首都ニュー・オーリンズで誕生した、ラテン(/カリブ)音楽の一種ですし、そういえばアバネーラ・ナンバーである9曲目「ノーバディーズ・リスニング」には "メキシコ湾" とか "ニュー・オーリンズ" といったことばがちりばめられています。ちゃんと歌詞を聴いていないので、どん内容を歌ったものか気にしていませんが、興味深いところじゃないでしょうか。キューバ音楽であるアバネーラ・ソング、ふうにつくったウィリー自作ナンバーでカリブに面する地名が複数出てくるというのはですね。

 

アバネーラはもちろんキューバ音楽なんですけど、アメリカ合衆国へそのまま直接流入したというより、19世紀にアバネーラが大流行したスペイン(キューバの宗主国)から入ってきたという面もあるでしょう。そもそもアメリカ大陸で大活躍のギターだってスペイン人やポルトガル人が持ち込んだものですから。楽器と音楽との両方が流れ込んだと思います。とにかく19世紀のスペインでは、それはもうアバネーラは大人気だったんですよ。メキシコ湾に面した南部の街を経由して直接流入したものと、二方向あったんじゃないでしょうか。

 

アバネーラを特徴付けているのは、かの独特な跳ねる二拍子のダンス・リズム・シンコペイションです。アフリカとヨーロッパと現地と、この三者が出会ったカリブ海は、中村とうようさんも強調したように世界の大衆音楽の揺籃の地であった可能性が高いです。三拍子はヨーロッパ由来かもしれませんが、それと二拍子がクロスして、独特の跳ねるリズムが生まれました。キューバをはじめとするカリブ海地域の音楽は、アフリカにもわたり近代アフロ・ポップのいしずえともなり、ラテン・ミュージックを生み、北に行って北米大陸でも文化混交による音楽の多様をもたらし、また植民地にしていた白人たちの手によってヨーロッパにもわたりました。アジア各国でもラテン音楽の影響は濃いですよね。

 

ウィリー・ネルスンらが活躍するアメリカのいわゆるカントリー・ミュージック界に、そもそもの最初からアバネーラのようなシンコペイティッド・リズムがあったと言えるかどうか、ぼくにはわかりません。しかし、縁なしと言いがたいのはたしかでしょうね。(ジャズだけでなく)アメリカ音楽とはラテン・アメリカ音楽であるがぼくの持論ですし、事実、ジャズでもブルーズでもロックでもファンクでも、とにかくアメリカ産大衆音楽のなかからラテン要素を抜くことなどできません。そもそもそれらのジャンル誕生の瞬間からラテン音楽は母胎となっていたでしょう。

 

そうであれば、やはりカントリー・ミュージックのなかには、いみじくも今回の新作でウィリー・ネルスンが鮮明に示してくれたように、最初からカリブ〜ラテン音楽が混じり込んでいると考えるのが妥当でしょうね。だって、三曲「マイ・フェイヴァリット・ピクチャー・オヴ・ユー」「ワン・モア・ソング・トゥ・ライト」「ノーバディーズ・リスニング」を聴けば、だれの耳にも明らかじゃないでしょうか。アイルランド〜ヨーロッパ系のずんずん進むフラットなビート感じゃなくて、ひっかかりながらヒョコヒョコ跳ねる二拍子系のクロス・ビートがここにはあります。

 

カントリー・ミュージックを主な題材に、北アメリカ大陸でどんな音楽文化混交が育まれたのか、想像をたくましくするに十分なウィリー・ネルスンの新作『ライド・ミー・バック・ホーム』なんですね。

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