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2019/07/23

マイルズ『イン・ア・サイレント・ウェイ』は先駆だったのか

Sonylegacyrecs_2019jun30

https://open.spotify.com/album/0Hs3BomCdwIWRhgT57x22T?si=O7vcOSNFTU6TveXIYyeTPw

 

日本時間の2019年6月30日(日曜)の23時過ぎに、ソニー・レガシー(コロンビア)がこういうツイートをしました。岩佐美咲を聴きに広島まで来ていたぼくは、それを広島駅近くのホテルの一室でお風呂上がりに読んだのです。
https://twitter.com/SonyLegacyRecs/status/1145334982052917250

 

いわく:

〜〜
『イン・ア・サイレント・ウェイ』は、いまから50年前にリリースされたときジャズを永遠に変えたと言ってさしつかえない。このレコードはマイルズ・デイヴィスのエレクトリック期のはじまりで、それすなわち現代ジャズ・フュージョンの先駆だったということだ。
〜〜

 

レガシーの言う50年前、すなわち1969年6月30日とは、マイルズの『イン・ア・サイレント・ウェイ』レコードがアメリカで発売されたまさにその当日なんですね。録音が2月のことでした。そんなわけで、アメリカ時間(といってもタイム・ゾーンが数個ありますけど)で6月30日になったのを機に、レガシーがこういったツイートをしたわけですね。

 

そんなレガシーの気持ちはよくわかります。がしかし、このレコードがレガシーの言うような意味合いでのはじまり、先駆的音楽だったのでしょうか。そのへんはちょっと考えてみないと軽々しくは言えません。いや、次作の『ビッチズ・ブルー』のほうが…云々といった伝統的言説をくりかえしたいのではありません。むしろ逆です。『イン・ア・サイレント・ウェイ』より前のマイルズ・ミュージックのなかに、マイルズ電化時代の端緒とかジャズ・フュージョンの先駆みたいなものがあったのではないでしょうか。

 

マイルズのエレクトリック期のはじまりは、言うまでもなく『イン・ア・サイレント・ウェイ』の一年ほど前です。リアルタイム発売されていたものに限定しても、『マイルズ・イン・ザ・スカイ』(1968年7月22日発売)の「スタッフ」(同年5月録音)があります。フェンダー・ローズ・ピアノとフェンダー・ベースが使われていて、電化マイルズではこれがいちばん早い一例ということになるんで、これこそがはじまりです。

 

もちろんそれは言いましたようにリアルタイムで発売されていたもののなかでは、ということですが、今日の話ではそう限定していいと思います。なぜなら当時世界が聴けなかったものは当時の世界に影響を与えていないからです。ですので、初電化&フュージョン・マイルズは1968年の「スタッフ」だと言ってさしつかえないはずなんです。いみじくもかの有名フュージョン・バンド名と同じなのは、関係ないことなんでしょうか。

 

アルバム『マイルズ・イン・ザ・スカイ』では、ほぼ「スタッフ」一曲だけだったんですけど、次作1969年2月5日発売の『キリマンジャロの娘』ではエレクトリック化+リズム&サウンドのファンキー化、多ジャンルとの融合(フュージョン)化がいっそう進み、アルバムのほぼ全編がその新路線で占められていると言えます。アルバム・オープナーの「フルロン・ブラン」はジェイムズ・ブラウンのファンク・アンセム「コールド・スウェット」のマイルズ流焼き直しですし、以前からアルバム『キリマンジャロの娘』を高く評価し重要性を強調しているぼくですが、ここでいま一度それをくりかえしておきたいと思うんです。

 

カリブ〜ラテン〜アフリカへの視線という面で聴いても、『イン・ア・サイレント・ウェイ』よりもむしろ前作『キリマンジャロの娘』のほうがより進んでいます。前者1969年6月30日発売のアルバムを特徴づけ、それまでのマイルズ・ミュージックとは一線を画すものとしているのは、なんといってもジョー・ザヴィヌルの参加ですね。演奏面でもそうですがそれよりも、キーとなる曲を提供しているというソングライターとしての参加が大きなことです。

 

すなわち曲「イン・ア・サイレント・ウェイ」。だから、これをふくむこのアルバムが、レガシーのツイートしたような先駆的役割をはたしたとするならば、この一点にかかわっているはずです。偉大なコンポーザーとしてのジョー・ザヴィヌルの参加と、静謐なユートピア志向のアンビエンス路線の音楽構築。つまり、ウェザー・リポートやリターン・トゥ・フォーエヴァーなどへの先鞭をつけたと。

 

しかしそれでも強調しておきますが、マイルズのアルバムでは曲「イン・ア・サイレント・ウェイ」が、動の「イッツ・アバウト・ザット・タイム」をはさみこんでいます。その中間部は完全なるファンク・グルーヴを持っていて、メロディでもサウンドでもリズムでもない、まさにグルーヴ一発勝負のグルーヴ・オリエンティッドな音楽になっていることを聴き逃してはならないのです。

 

結局のところ、マイルズが先駆的な役割をはたしたかもしれない1970年代ジャズ(・フュージョン)は、その後の足どりもたどりながら考えてみますと、やはり躍動感を重視する方向に進んだと思うんですね。ロックやファンク・ミュージックが端的に持っていたようなグルーヴ感をジャズも持つようになった、それも(ジャズ・)フュージョンという音楽の最大の特色のひとつです。

 

そういったものの先駆がマイルズのアルバム『イン・ア・サイレント・ウェイ』だったとするならば、上で書きましたが、そういったグルーヴ志向はもっと前からマイルズのなかにもあったと。「スタッフ」や「フルロン・ブラン」があったじゃないかと。そう考えてみますと、たしかにアルバム『イン・ア・サイレント・ウェイ』はパーフェクトな完成品として見事な構築美を放っていますけれども、そのさらに先駆がマイルズ自身のなかにもすこし前からあったなと、こう思うんですね。

 

以下のプレイリストも参考にしてみてください。
https://open.spotify.com/playlist/6lqRYW2bedj7VPWHw8hb2Y?si=ZXEeWx3sTveocH4aft5vFQ

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