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2019/07/03

真実は音にあり 〜 略歴紹介なしのニュー・クリティシズム主義

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文学批評の方法論のひとつにニュー・クリティシズムというのがありまして、ぼくは根っからそれに染まっている人間。英文学者だった時代が長いですけど、もっぱらこれで通してきました。ニュー・クリティシズムとはなにか?を簡単に言いますと、批評対象の作品を社会的・文化的、そしてなにより作者の伝記的文脈と切り離し、作品じたい自律したものとしてそれだけ扱うっていう態度のこと。主に英米で20世紀前半あたりに主に大学で流行ったやりかたです。すぐれた批評本もたくさんあります。

 

文学作品は、それじたい自律したものであって、創り手の人生や背景などに意味の源泉があるのではないという考えから来る批評方法だと言っていいんじゃないでしょうか。こういったニュー・クリティシズムが主にアメリカの大学で盛んだった理由のひとつには現実的な要請もありました。それは作家の人生や諸々の背景・文脈を解説するばあい、しっかりやるとそれだけで学期が終わってしまうっていうことです。

 

いくら従来的な文学批評法でも、最も肝心なのはやはり作品の中身を扱うことでしょう。そこへ一歩も足を踏み入れることのできないままワン・タームが終了すると、なにをやったのかわからなくなってしまう、という一種の危機感みたいなものがアメリカの大学で英文学の授業をする教授たちにあったと思います。これがニュー・クリティシズムが勃興する現場での現実的理由でした。

 

そんな事情もあったとはいえ、やっぱり作品そのものが大切だから、まとわりつく諸情報はとりあえずいったんは切り離して考え、作品単独でそれじたいのなかで意味は完結しているとして扱って考え分析するというニュー・クリティシズムの批評方法論は、いまでもけっこう有効なんじゃないかと思うんですね。それは第一になによりも作品そのものを大切にするという態度だからです。創り手の人物、人生、来歴などを作品関連情報として語るのは二の次でいいんです。

 

これ、真実はすべてテキストにありという考えですよね。伝記的事実なども作品のなかに流れ込んでいるんだから、作品をじっくり十全に考え論評することが、ひいては創り手の人間的側面について語ることにもなるっていう、そんな発想だと言えましょう。なによりいちばんたくさんの時間を作品そのものの分析に割きたいわけだから、という現実的な理由はもちろんありますけれどもね。

 

そんな考えでずっとやってきましたから、ぼくは音楽についてしゃべるときも「真実は音にあり」という態度を貫いているんですね。はっきり言って創り手の人生や来歴なんかはメンドくさいといった面もありますけどね。ライナー・ノーツでも音楽記事でもブログなんかでも、略歴紹介はたいてい読み飛ばしているわけなんです。一足飛びに中身の音楽分析を読みたい。これはもう根っから染みついた発想で、まず死ぬまで抜けないと思います。

 

自分で書くときも、音楽家の人生や伝記的側面や、つまりいわゆる略歴やキャリア紹介などという部分には極力触れないようにしています。触れちゃダメなんてことじゃない、語っていいんですけど、作品に関係した部分だけ、っていうことですね。たとえばアメリカ音楽のばあいだと、どこの州のどこの都市出身でどこの街で活動したかという事実は、そのひとの音楽性に直結しています。そういったことは言わないといけないですけど、密接な関連がなさそうな周辺情報は音楽を聴く上ではジャマじゃないでしょうか。たとえば、何人兄弟だとか、そんなのは。

 

必要な(伝記的)情報も、実は音楽のなかにはっきり聴きとれるものとして顕在しているわけですからね、だから結局音源のことだけ語ればオッケーではあるんですよね。それがぼくの考えかた。たとえばマイルズ・デイヴィスが「マドモワゼル・メイブリー」という曲をやって、それがリズム&ブルーズ調であるとき、その音楽性はとても大切ですけど、メイブリーってだれなのか?マイルズの恋人?いつどこで出会ってその後どうなった?結婚した?みたいなことは、まあどうでもいいわけです。ベティ・メイブリーさんからマイルズはソウルやファンク・ミュージックを教わったかもしれませんが、結局はマイルズの音楽です。いつもそこに、音のなかに、すべての真実があると思うんです。それについてだけ語りたいわけですよ。

 

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