東アジア人にとっての過去への思慕 〜『ロンギング・フォー・ザ・パスト』
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2013年のダスト・トゥ・デジタル盤 CD 四枚組&豪華ブックの『ロンギング・フォー・ザ・パスト:ザ・78 rpm・エラ・イン・サウスイースト・エイジア』。この前年のアフリカ音楽 SP 音源集『オピカ・ペンデ』といい、ちょうどこのころダスト・トゥ・デジタルというインディペンデント・レーベルを知って、なんというすばらしい会社か!と感嘆しきりでしたよねえ。たぶんみなさんもそうだったのではないでしょうか。
でも『オピカ・ペンデ』ではあまり感じなかったことを、東南アジアの1905〜66年の SP 音源集『ロンギング・フォー・ザ・パスト』でははっきり感じます。ひとことにして、郷愁。むかしをなつかしむフィーリングが、ぼくみたいなありきたりの日本人にもあるんですね、このボックスを聴くと。それでなんとも言えない気持ちになってしまいます。失われてもうそこにはないけれど、いま音で聴けて実感できる過去の自分の姿を見ているような、そんな感じですかねえ。
これはやはりアフリカと東南アジアという地域性の違いから来るものでしょうか。きっとそうですよね。洋楽好きのぼくみたいな人間にとっては、ふだんから聴きなじんでいるのはどっちかというと『オピカ・ペンデ』に収録されているような音楽なんですけど(ラテン音楽要素も濃いですし)、『ロンギング・フォー・ザ・パスト』を聴くと、そんな次元を超えて DNA に訴えかけてかきまわしてくれるような、なごませてくれるような、そんな気分がします。
でもって、『ロンギング・フォー・ザ・パスト』を聴いていると、ほっこりなごんだやわらかくあったかい時間が流れていくのもはっきり感じます。これも(東)アジア性といったことかもしれないですね。収録されている90曲のなかにとんがったシビアなものはまったくなし。親近感とか身近な卑近性を感じさせるものばかりですよねえ。だから東アジア人としての DNA とあわさって、聴いているとなんだかアット・ホームな感覚でくつろげるんだと思います。
『ロンギング・フォー・ザ・パスト』四枚組に収録されている音楽は、それぞれ以下のように国によって分かれているようです。聴いてそうだとわかる部分とぼくには不鮮明な部分とがあります。
CD1 ヴェトナム、ラオス、カンボジア
CD2 タイ、カンボジア、ラオス、ヴェトナム
CD3 ビルマ、タイ
CD4 マレイシア、シンガポール、インドネシア
個人的にいちばんピンと来るのは、CD2終盤からCD3にかけて収録されているタイのルークトゥン、CD3のビルマ(とその仏教歌謡)、CD4のインドネシアのガムラン・ミュージックでしょうか。ルークトゥンはあまり聴き慣れている音楽じゃなかったんですけど、このボックスで聴くと実に魅力的でした。インドネシアのガムランや、ビルマの仏教歌謡(というか伴奏のサイン・ワイン楽団ですけど、ぼくが好きなのは)やビルマ・ピアノなどは、ちょっとだけ聴き知っていたところです。あ、四枚目にはウピット・サリマナなんかも収録されているんですねえ。
全体的に中国音楽の、というか中国音階のということか、影響を強く感じるばあいも多いのは、たぶんあたりまえのことなんですよねえ。東アジア圏では歴史的に中国の文化的なパワーが大きいですし、また中国系のひとびとが各地にたくさん住んでもいます。
いやあ、それにしても本当にのんびりのどかで、おだかかで、いいですねえ、東南アジアの古い SP 音源集。癒されるとはまさにこのことです。CD 四枚の収録順や CD ごとの分別方針は必ずしも鮮明じゃないというかタイトじゃないみたいですけど、だからビルマが出てくると思ったらタイになってまたビルマになったりしますけど、そんなところも東アジア的おおらかさでしょうかねえ。
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