井上陽水奥田民生『ショッピング』は傑作
1997年作のこれ、ホ〜ント痛快な傑作だと思いますねえ。こういった作品こそ、ポピュラー・ミュージックの、いや、「音楽」の、お手本、理想に違いありません。その最大の理由は、陽水も民生も大まじめに、真剣に、遊んでいる、ふざけているからなんですね。なかなかここまでおふざけに徹している音楽アルバムってないんですよね。痛恨事はこのアルバムが、一曲たりとも、ネットで聴けないことだけです。
陽水民生の『ショッピング』が超楽しいっていうのは、いままでにも数回書いていることなんですけど、ホントいつまで経ってもヘヴィ・ローテイション盤の位置から降りないので、ずっと聴き続けているので、傑作だと信じているので、しかしそれにしてはあまり話題にあがらないアルバムですので、だからまたいま一度書いておくことにします。やっぱり大切なことはくりかえし言わないとね。
こんな大傑作がそうとは言われないのは、やっぱりこのアルバムでの陽水も民生もおふざけに徹しているからでしょうねえ。大まじめに、懸命に、ふざけているんですけど、シリアス主義の強いリスナーのみなさんのあいだではこんな音楽はなかなか受け入れがたいということなんでしょうかねえ。残念です。でも聴けば文句なしに楽しいんです。間違いないです。
どこがふざけているって、大きく言って二点ですね。まず歌詞。そしてかなりの曲が米英ポップ/ロックの有名曲をそのまま拝借していること。この二つなんですね。歌詞の点では、このアルバムのどこにもシリアスな面はないです。たとえば8曲目「A と B」。この曲題で察せられるとおり、カセット・テープのことを歌っただけの内容なんですね。それをロネッツの「ビー・マイ・ベイビー」に乗せて大まじめに陽水が綴っているっていう。
民生リードの7曲目「2500」はレッド・ツェッペリンのパターンが下敷きに、っていうかそのまんまですけど、これも歌詞を真剣に受け止めようとなんかしたらバカを見ますよ。意味なんかないわけですからね。たんなる言葉遊びなだけだと、聴けばわかります。陽水リードの10曲目「手引きのようなもの」だって同じ。釣りと恋愛をひっかけているだけです。
歌詞に意味なんかない、たんなるお遊びだ、というこの二名の大まじめなおふざけポリシーは、もとは PUFFY に提供した楽曲であるアルバム・ラストの「アジアの純真」でいちばん鮮明に表出されています。みなさんもお聴きになればおわかりでしょう。「北京、ベルリン、ダブリン、リベリア、束になって輪になって/イラン、アフガン、聴かせてバラライカ」なんて歌詞のいったいどこに意味なんかあるんでしょうか。しかしものすごく語呂がいいから、音楽の歌詞としては最高ですね。
1950〜70年代の洋楽好きにはたまらない仕掛けが随所に施してあるのもポイント高いです。いままで書いたもの以外だと、4曲目「ショッピング」はベニー・グッドマン楽団の1938年のヒット「シング・シング・シング」ですけれど、5曲目「意外な言葉」は、ビートルズの「ドント・レット・ミー・ダウン」、6「カラフル」は1950年代ふうのラテン・テイストを持った米英ポップ/ロック、9「月ひとしずく」はジョージ・ハリスンの「マイ・スウィート・ロード」、などなど。特にアルバム5〜9曲目あたりの流れは文句なしですね。
ま、簡単に言って、この陽水民生のアルバム『ショッピング』とぼくはウマが合う、相性バッチリ100%、ぼくにとってはこの世で巡り合った運命のパートナーみたいなものなので、も〜う、ホント、いつなんど聴いても心地いいんですね。適度な興奮とくつろぎがここにあります。たまらなく大好き。本当に愛しています。ただ、それだけ。極私的には、だから、大傑作というか、これ以上の音楽がこの世にあるのか、というほどの最高の一作なんですね。
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