ヨット・ジャズ名盤二枚
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ヨット・ロックというのがあるのなら、ヨット・ジャズというものがあってもいいはず。ヨット・ロックとは要するに AOR みたいなものの別称らしいんですけど、ジャズのなかにもアダルト・オリエンティッドなソフトで落ち着いたくつろげるものがありますよね。言い換えれば BGM 的っていうかイージー・リスニング向きということで、たくさんあるそんななかから今日はマイルズ・デイヴィスの『マイルズ・アヘッド』(1957)とハービー・ハンコックの『処女航海』(1965)をピップアップしてみました。
どうしてこの二枚かというと理由ははっきりしていて、ジャケットにヨットが写っているからです。『マイルズ・アヘッド』のほうは発売当時すぐにジャケット変更されたのが現在まで使われていますけど、オリジナルはあくまで上掲のヨット風景ですからね。ハービーのほうは有名なこれで、みなさんご存知のとおり。な〜んだ、ジャケットがヨットなだけかよ、と言うなかれ、中身の音楽がまさしくこの二枚、ヨット・ジャズですよ。
収録曲に船や海をテーマにしたものが含まれていることも、この二枚を選んだ大きな理由です。ハービーのほうでは言うまでもなく「処女航海」や「ドルフィン・ダンス」が有名ですけど、マイルズのほうにだって「マイ・シップ」がありますもんね。マイルズがとりあげた「マイ・シップ」は、かのクルト・ワイルの曲なんですね。だからたぶんチョイスしたのはギル・エヴァンズだったかもしれません。
その「マイ・シップ」の演奏が、こりゃまた海面をスーッと進むようななめらかさ。よどみなさ、スムースさは特筆すべきものですが、晴れた日にヨットで航海しながら水面を見れば太陽の光があたってキラキラしているといった光景まで鮮明に浮かぶかのようじゃないですか。こういったソフト・ジャズみたいな仕上がりはデビュー期からマイルズのお得意で、それをギルがいっそう手助けしていますよね。
スムースなソフト・ジャズっていうのは「マイ・シップ」だけでなく、アルバム『マイルズ・アヘッド』全体について言えること。引っかかったり大きく跳ねたり飛躍したりせず、ハードな激烈さもなく、本当におだやかな海面をスーッとヨットで進んでいるかのようなサウンドですよね。だからイージー・リスニング的なんですけど、イージー・リスニングっていうのは褒めことばですからね、ぼくのばあい。
そこいくとハービーの『処女航海』のほうにはまだちょっとだけハード(・バップ)なジャズ傾向があります。「ジ・アイ・オヴ・ザ・ハリケーン」と「サヴァイヴァル・オヴ・ザ・フィテスト」。この二曲でだけ波がやや荒いといった雰囲気でしょうか。『マイルズ・アヘッド』のほうと違ってハービーは別にイージー・リスニングを企図したわけじゃありませんので、こういった曲があってアルバム全体としては緩急がつき、ちょうどいい具合になっているでしょう。航海もときにはハードです。
しかしそれら以外の曲、特に「処女航海」と「ドルフィン・ダンス」は特筆すべきおだやかムードですよね。まさにヨット・ジャズ。やわらかくソフトで聴きやすく、聴いていて気分がなごみくつろげる極上のアダルト・オリエンティッドなアトモスフィアですよね。航海やイルカをテーマにしたコンポジションだからなのか、書いたハービーが意識したかもっていう、そんな雰囲気がありますよね。
マイルズのことばに、作曲とはムードをこしらえるということだろう、違うか、というのがありますが、本当にこのムード重視ということは(フリー・ジャズなど一部のものを除き)ジャズの作曲・演奏にあてはまる最重要事項だと思いますね。ジャズだけでなく音楽全般そうだなと思うんです。落ち着いた大人の雰囲気をかもしだす、ゆったりくつろげるヨット・ジャズも、ときにはいいじゃないですか。
(written 2019.8.14)
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