ブラス・バンドなツェッペリン 〜 ボネラーマ
https://open.spotify.com/album/0Lw4VdAQBPVcZKNDRFXmLI?si=B2N_y3Q9Tk-MU2omAqI2tA
ボネラーマはニュー・オーリンズのブラス・バンド(1998年結成)。ドラマー、ギターリストもいますけど、管楽器ではトランペッターがおらず、スーザフォンのほかは三本のトロンボーンだけでアンサンブルを創っていくという、ちょっぴりユニークな集団です。そのボネラーマが今2019年4月26日にリリースした最新作が『ボネラーマ・プレイズ・ツェッペリン』(鍵盤でアイヴァン・ネヴィルが少しゲスト参加)。そうです、英国のロック・バンド、レッド・ツェッペリンの曲をカヴァーしているんですね。大のツェッペリン好き&ブラス・アンサンブル好きのぼくがこれを見逃すことなどありましょうか。
ツェッペリンのどんな曲をやっているかは、上のトラックリストをごらんになればわかりますので省略。有名曲に混じって6曲目で「ヘイ・ヘイ・ワット・キャン・アイ・ドゥ」(「移民の歌」シングル B 面)をやっているので、マニアとしてはちょっぴりニンマリ。アレンジはわりかしジミー・ペイジのやったオリジナルに忠実で、ブラス・バンドだから…って、どんなふうになるのか?と思っていた身としては、ちょっぴり意外というか拍子抜けというか。
ロバート・プラントがやった歌も複数メンバーがそつなくこなしていて、違和感はないですね。アルバム中三曲、「イン・マイ・タイム・オヴ・ダイイング」「フォー・スティックス」「ザ・クランジ」はヴォーカルなしのインストルメンタル・ナンバーになっています。これらの曲は、ゼップのオリジナルからしてやや特異なものでしたから、楽器演奏だけとしたのは理解しやすいですね。
だいたいどの曲でもボネラーマはジミー・ペイジ・アレンジをほぼそのまま踏襲して、ギター・パートなどをそのままホーン・アンサンブルに置き換えたものだということが、聴けばわかります。インストルメンタル曲ではヴォーカル・パートも管楽器が演奏していますよね。どのばあいも、トロンボーンやスーザフォンが演奏しはするものの、そのラインはオリジナルどおりですから、かんがみるに、このアルバム『ボネラーマ・プレイズ・ツェッペリン』は、大のゼップ好きだけどブラス・バンドにはいままであまり縁がなかったというみなさん向けのホーン・アンサンブル入門みたいなものとして好適だと思うんですね。
出だし1曲目の「グッド・タイムズ・バッド・タイムズ」。ツェッペリンのデビュー・アルバム幕開けでもありました。つまりこの曲はこのブルーズ・ロック・バンド登場のファンファーレみたいなものでしたし、まさしくそういうふうに聴こえるギター・コードかきならしが冒頭から入っているのが印象的でしたよね。ボネラーマはそのギター・パートを重厚なブラス・アンサンブルにチェンジしているんですね。で、バッ!バッ!と。
エレベ・パートもギター・パートも、もちろん管楽器が演奏していますが、そのラインはツェッペリンのオリジナルにわりと忠実です。だから、ロック・ギターリストやベーシストがそのままトロンボーンやスーザフォンをやったらどうなるか、の実例みたいなものとして『ボネラーマ・プレイズ・ツェッペリン』は聴けるなと思うんですね。
ツェッペリンというバンド最大の特色は(まあロバート・プラントとジョン・ボーナムかもしれないけど、ぼく的には)ジミー・ペイジの演奏する多重ギター・アンサンブルの妙にありましたから、「ブラック・ドッグ」なんかでもほかの曲でも、それをそのままホーン・アレンジに転用してあるボネラーマの手法は、ロック・ファンのみなさんでもなじみやすいものじゃないでしょうか。
ちょっと興味深いのは「ハートブレイカー」ですね。この曲だけはリズムのファンクな感じがボネラーマならではのもので、ツェッペリンのオリジナルには聴けないビート感を出しているのが印象に残ります。中庸テンポでひょこひょことややユーモラスに跳ねるこのリズムの感じは、まさにニュー・オーリンズ・ファンクならではと言えましょう。さすがは当地のブラス・バンドです。
ツェッペリン・オリジナルで中間部のリズムが止まった部分でジミー・ペイジが弾いていたカデンツァふうのソロを、ボネラーマではスーザフォンがやっていますが、その後半部でリズムが入ってきてからも、そのビート・フィーリングといいホーンズのフリーなからみあい具合といい、かなりの聴きものです。この「ハートブレイカー」はボネラーマにしかできないユニークな内容で、アルバムの白眉と言えましょう。ゼップでこんなアレンジは聴けませんでした。
ニュー・オーリンズ現地にはいっぱいあるブラス・バンド。そんなホーン・アンサンブル・ミュージックのファンというより、レッド・ツッェペリン好き、ブルーズ・ロック聴きのみなさんにオススメしたい一枚です。また、ツェッペリンってあんまり聴いたことないなあっていう吹奏楽ファンのみなさんにもグッドかも。
(written 2019.7.26)
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