ぼくにとっての『フォレスト・フラワー』とキース・ジャレット
https://open.spotify.com/album/6lIWfnUerZuu9UcUDnF2JD?si=wn5lR3c6QiaXM4Y5KCii5w
ルシンダ・ウィリアムズと組んだ昨2018年の新作『ヴァニッシュト・ガーデンズ』がかなりおもしろかったので、ふたたびぼくのなかで評価が上昇したチャールズ・ロイド。ジミ・ヘンドリクス・ナンバーなんかもやっているその新作のことはまた追って書きましょう。今日はおなじみ1966年のモンタレイ・ライヴ『フォレスト・フラワー』(67年発売)のことをちょっとだけメモしておきます。
ぼくにとっての『フォレスト・フラワー』は二曲を収録した A 面がすべてで、B 面はあまり聴いたことがなかったんですね。CD 時代、ストリーミング時代になって、放っておけば連続再生されますのでそのまま聴いていますけど、A 面こそ大好き!というこの気持ちに変化は生じません。やっぱり最初の二曲、というか2トラックですよねえ、このアルバムは、ぼくにとってはですね。
チャールズ・ロイドと1966年と西海岸といえば、ヒッピー・ムーヴメントやサイケデリック・カルチャーをどうしても想起しますよね。実際、60年代のロイドはそういった文脈で語られることも多いようです。がしかし『フォレスト・フラワー』最初の二曲(はどっちも「フォレスト・フラワー」)のこのタイトルがそう明示しているにしては、演奏の中身にそれは感じません。
もちろんロックだとかボサ・ノーヴァだとかいったテイストは、いかにも(アメリカの)1960年代的な文化かもしれないですけど、いま2019年に聴いても気持ちいいなと思うふたつの「フォレスト・フラワー」(1「サンライズ」、2「サンセット」)の魅力は、シンプルに音楽的なものです。それはチャールズ・ロイド本人というよりも、ピアノを弾いているキース・ジャレットのアーシーさ、ゴスペル・タッチで高揚するフィーリングにあるんですね、ぼくにとっては。
こういった弾きかたをするキース・ジャレットを、ぼくはこれより前に自身のリーダー作品である『生と死の幻想』(1974年録音75年発売)で知りました。あとになって『フォレスト・フラワー』をふくむチャールズ・ロイド・カルテットを何枚か聴いて、な〜んだ!と思ったわけですけど、第一印象がなかなかぬぐえず、だからいまでもぼくにとってのロイド・カルテットは、むしろキースのコンボみたいな聴きかたをしているわけなんですね。
ふたつの「フォレスト・フラワー」はひとつづきっていうか組曲みたいなもんですけど、むやみに高揚しますよね。もりあがりかたがすごいです。その様子は、ぼくから言わせたらアメリカ黒人教会におけるゴスペル・ミュージックのそれによく似ているなと思うわけなんです。そのもりあげ役をひとえに担っているのがキース・ジャレットの弾くこのアーシーなゴスペル・タッチのピアノじゃないでしょうか。
しかしふたつのどちらも、リズムはゴスペルとかファンク・ミュージックのそれではなく、もっとふわっと軽いボサ・ノーヴァ・タッチですよね。それプラス、ロックのリズムが加味されているなといった程度でしょうか。リズムを主に表現しているジャック・ディジョネットのドラミングに乗って(ロイドの伴奏でも)キースが弾くシングル・ノートやブロック・コードには気高い荘厳さすらあって、それこそがぼくは『フォレスト・フラワー』最大のチャームだと思っているわけなんですね。
チャールズ・ロイド自身はやっぱり1960年代後半のアメリカン・カルチャーが産んだ人物なのかもしれないですけど、そのロイドの69年ごろまでの音楽の魅力は、キース・ジャレットとジャック・ディジョネットが大半を占めていたとぼくは考えています。もちろんふたつの「フォレスト・フラワー」みたいなこういった曲づくりができたロイドの才能は大きいのですけれども。
いやあ、ほんと、カッコイイというか最高です、このころのチャールズ・ロイド・カルテットで弾くキース・ジャレットは。
マイルズ・デイヴィスも、1968年11月にジャック・ディジョネットを、70年5月にキース・ジャレットを、それぞれ自身のバンドに迎えたわけですからねえ。ファンキーに弾くキースのことはもっと早くにほしかったのかもと思いますし。
(written 2019.8.1)
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