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2019/08/03

こんなすごい歌手がいた 〜 1985年のヌスラット

1007918533

https://open.spotify.com/album/3LoBvidLM9LzvT4GpJfMV7?si=kBuqU8tqTz-lPc7bIvSfkQ

 

https://realworldrecords.com/releases/live-at-womad-1985/

 

英国はエセックスのマーシー島で行われた WOMAD 1985。その出演者のなかにヌスラット・ファテ・アリ・ハーンのパーティーがありました。このときのヌスラットのパフォーマンスはアジア圏外では初のもので、その後のヌスラットの快進撃と世界的名声を考えますと、このウォマド85こそヌスラットのものすごさを全世界に知らしめた最初だったわけですね。いまだワールド・ミュージックということばも定着していなかった時期だと思います。

 

そのウォマド1985のときのヌスラットのパフォーマンスを録音したものが、今2019年7月26日にリアルワールドからアルバムとして発売されました。このリリースは衝撃の事件だと言えましょう。一聴、いやあ、ものすごいヴォーカル・パフォーマンスです。ワールド・ミュージック・ブームなどとっくに霧散無消し、1997年に亡くなったヌスラットのことも忘れられつつあるかもしれませんが、いま一度こんなものすごい歌手がいたんだと思い知る名発掘の一枚です。

 

ヌスラットの『ライヴ・アット・ウォマド 1985』、おなじみの有名ヒット曲が並んでいますが、特にすごいなと思うのが最初の二曲「アッラー・フー・アッラー・フー」「ハク・アリ・アリ」です。この二曲で聴き手は興奮のあまり絶頂に達し失神してしまいますから、残りの二曲をまともに聴くことなどできません。それくらいそれら最初の二曲は壮絶です。こんなすごいヴォーカリスト、いま、世界のどこにいるというのでしょうか。

 

この1985年7月20日深夜のヌスラットのライヴ・パフォーマンスがどんな様子だったのか、上でリンクを貼ったリアルワールドのサイトにくわしく掲載されていますので、ご一読ください。とにかくこの1985年ウォマドでのヌスラット・ライヴの意義と重要性は、どんなに強調してもしすぎることはないんです。いわゆるワールド・ミュージック界、といわず大衆音楽の世界における頂点に、85年時点で到達してしまったパフォーマンスです。

 

「アッラー・フー・アッラー・フー」「ハク・アリ・アリ」をお聴きなればおわかりのように、パーティの演奏は最初ゆっくりとはじまります。そこから徐々に熱が入り、ヌスラットが咆哮し、バック・ヴォーカリストたちがレスポンスして、楽器(ハーモニウムとタブラと手拍子だけ)演奏も盛り上がり、ヴォーカル陣、特にリードであるヌスラットの声は突き刺すような鋭さを増していきます。

 

約20分以上にわたる、カワーリーのアイコニックな一曲「アッラー・フー・アッラー・フー」でも、有名ヒット・ソングの「ハク・アリ・アリ」にしても、中盤あたりからの熱の高さは尋常ではありません。ここまでの沸点の高さを記録した音楽ライヴ・パフォーマンスは、分野を問わず、そうそうあるものじゃないですね。ヌスラット自身、世界デビューとなったこの1985年時点ですでに絶頂にあったとしても過言ではありません。

 

ほんと、「アッラー・フー・アッラー・フー」も「ハク・アリ・アリ」も中盤から後半の異様な盛り上がりかた、どこまで昇りつめるのかという熱の高さは驚異ですが、同時に驚くことはこれら全体がそれぞれ緻密に構成されていることです。20分以上もあるワン・ナンバーが細部にわたるまでよく計算されていますよね。しかもその構成は、かなりの部分、即興なんですよ。現場でのインスタント・コンポジションに多くを負っています。

 

そして主役のヌスラットのこの声!鋼のような力強く鋭く、そして美しい声で、聴き手に直接突き刺さってきます。しかも、そうでありながら同時に丸くてコクがあってまろやかですよね。高い声で一閃するときの張りと鋭さや、アァ〜〜と伸ばすときでも細かいフレーズを高速で即興的に繰り出すときでも、ヌスラットのヴォーカルは常に威厳と気高さ、誇りに満ち満ちています。強さがそのまま優しさになっているような、そんな歌でぼくらを溶かしてしまいます。聴きながら、興奮の絶頂でそのままとろけてしまうんですね。恍惚とはまさにヌスラットのカワーリーを聴く体験です。

 

こんな絶頂期のヌスラットは、録音されているなかではひょっとして人類史上最高最強の歌手だったのかもしれないとぼくはかねてより考えています。ヌスラットを超えるほどの豊穣でソウルフルなヴォーカリストが、果たして地球上に存在するのでしょうか。今回発売された1985年ウォマドでのパフォーマンスにしろ、あまりのなまなましさと迫力に、まったく KO されるしかないでしょう。

 

カワーリーという音楽は、パキスタンのイスラム教神秘主義スーフィズムの宗教歌なんですが、ことばや国・地域、音楽や文化の種類といった枠を超えて、ヌスラットの声とパーティの音楽は普遍的な美を放っているに違いなく、世界のだれでも日本人でも、聴けば心動かされてしてしまうだけの強い魅力を放っています。

 

ウォマド 1985でのヌスラット・ファテ・アリ・ハーンとそのパーティの音楽ライヴはまさにマジカルなイヴェントで、音楽の世界を永遠に変えたモーメントだったと思います。天才歌手とは、天才のなす音楽とは、こういったものなんです。ちょっと聴いてみようではありませんか。ヌスラットの声とパーティの演奏のひとつひとつでアドレナリンが大量に放出され、心臓の鼓動がより強く速く大きくなるのを確実に感じられます。

 

(written 2019.8.2)

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