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2019/09/10

メンフィスへ 〜 フォイ・ヴァンスのアメリカーナ

300x

https://open.spotify.com/album/5DtQQgT9d9Ut0I5SoZYfPJ?si=K4D2GikfQnCK1rMauxbLCQ

 

北アイルランドのシンガー・ソングライター、フォイ・ヴァンス。今2019年6月の『フロム・マスル・ショールズ』は、こりゃあやりすぎと思うほどの一本気なサザン・ソウルまっしぐらでしたね。ところでこれしかしレコードも CD も見つけられなかったんですけど、どこで入手できるんでしょうか?どなたかマジで教えてください。
https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2019/08/post-13ba2d.html

 

このアルバムがリリースされたとき同時に来たる九月には『トゥ・メンフィス』という、アメリカーナをテーマにした今年二作目をリリース予定であることが、すでにアナウンスされていました。はたしてそのとおり9月6日に出たというわけです。ジャケット・デザインも同一基軸だし、アルバム題だって「フロム・マスル・ショールズ・トゥ・メンフィス」と展開できますね。

 

キリスト教の宗教色も強く漂う九月の新作『トゥ・メンフィス』でのフォイ・ヴァンスは、ぼくの聴くところ、1960年代末のザ・バンドによく似ているなと思います。ザ・バンドはひとりのアメリカ南部人の持つアメリカーナ的要素を、ほかのカナダ人が解釈・展開してみせたバンドだったわけですが、フォイ・ヴァンスも米南部からすれば異邦人、北アイルランドの人間です。

 

フォイのばあいは、ザ・バンドにおけるリヴォン・ヘルムみたいな役割のパートナーがいないと思いますから、みずからアメリカ南部音楽のアメリカーナの深奥にわけいって、今度はそれをある意味客体化し、整然と聴かせる成果にまで持ってくるという、これらぜんぶをたったひとりでこなしているわけでしょう。

 

実際、『トゥ・メンフィス』で聴ける音楽は(同郷のヴァン・モリスンなんかにもやや相通ずる)カントリー・ソウルみたいなものを中心とし、もっとグッと深いゴスペル風味、アメリカーナ的カントリー・フォーク、あるいはブルージーなもの、ストレート・ソウル、さらにはカリブ音楽テイストまでとりいれて、それらを渾然一体化してロック・ミュージックというスープに仕立て上げるという、要はザ・バンドの2019年版 by 北アイルランド人とでもいったところでしょうか。

 

かつてのザ・バンドにあまりなかったもので、個人的に興味深いなと感じるのは2曲目「オンリー・ジ・アーティスト」と4「ハヴ・ミー・マリア」で聴ける鮮明なカリブ音楽風味です。アルバム全体はややテンポのないようなふわっと漂うようなビート感をしていますから、これら二曲ではっきりとラテン・シンコペイションが聴けて、また4曲目はまごうかたなきアバネーラ(跳ねる二拍子)で、ぼくなんかにはうれしいところです。

 

考えてみれば、19世紀末〜20世紀初頭のアメリカの大衆音楽が姿かたちを整えたころには、カリブ/ラテンな音楽要素は、特にアバネーラとクラーベが、しっかりあったんでした。そういったものをルーツとして根底に置きつつ、アメリカン・ポップ・ミュージックは成立したんですよね。それもメンフィスのような南部の都会を舞台にして。

 

メンフィスは、米南部にあって、この大陸にある各種音楽のまじわる要衝でした。アメリカ大衆音楽史上、最重要地点だったと言ってもさしつかえありません。そんなメンフィスへたどりついたフォイ・ヴァンスのアメリカーナの旅は、同じ南部のサザン・ソウルをとことん煮詰めて究めた六月の『フロム・マスル・ショールズ』からそのまま一直線を描いているんでしょう。

 

(written 2019.9.9)

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