モノクロ無声映画のように 〜 サマンサ・シドリー
https://open.spotify.com/album/2MLZZN2JBPpxsIXfn0Dj6I?si=YKP5TcsKSYGlcIhBNv0Qng
萩原健太さんの紹介で知りました。
https://kenta45rpm.com/2019/09/17/interior-person-samantha-sidley/
サマンサ・シドリーってだれでしょう?ぼくはなにも知りません。リンクした健太さんのブログに書いてある情報がぼくの持つすべてです。ともかくそのデビュー・アルバム『インテリア・パースン』(2019.9.13)が心地いい。これはレトロなグッド・タイム・ミュージックなんですね。そして同時にラテン・テイストもはっきりあるんです。そんなわけで大のぼく好みな音楽。
健太さんもお書きですけど、このジャケット・デザイン、モノクロ無声映画のようなこれが中身の音楽をよく物語っていますよね。たぶんアメリカン・ポップスの根底に、こういったティン・パン・アリー的なというか、ジャジーなオールド・タイム・ポップスがいまでも流れ、ひっそり息づいているということじゃないかと思うんですね。だからいまでも折に触れて表層に出現するんでしょう。
サマンサの『インテリア・パースン』のばあいは、書きましたようにラテン・テイストがそこそこ濃厚にあるというのが特色で、ほかのレトロ・グッド・タイム・ミュージックとは一線を画すところですね。もう一個、きわめてプライヴェイトな音楽であるという肌ざわりがするという、なんというかあくまで内輪向けの内向き音楽だなという感触もあるのが大きな特徴でしょうね。開放的な感じがしないです。
このアルバムにある鮮明なラテンは、1曲目「アイ・ライク・ガールズ」、6「リスン!!」、8「ビジー・ドゥーイン・ナシン」の三つ。最後の曲だけが今回のアルバムのための曲ではなく、ブライアン・ウィルスンがビーチ・ボーイズのために書いたもののカヴァーですね。ほかはアルバムの全九曲とも用意された新曲のようですが、サマンサが書いたというわけじゃないんだそうです。
1曲目の「アイ・ライク・ガールズ」のこの淫靡なラテン臭はどうでしょう。なかなかの味じゃないでしょうか。セクシーですしね。パーカッショニストが独特の跳ねるシンコペイションを演奏しているのが印象に残ります。トロンボーン・ソロもよし。控えめに小さく入るオルガンも効いているし、サマンサのヴォーカル(多重録音?)もおもしろいですよね。
アルバムのどの曲もジャズ・バンドが伴奏をつけているんですが、6曲目「リスン!!」ではヴァースみたいなのをピアノ伴奏で歌ったかと思うと、リフレイン部でいきなりリズムが派手にジャンプしはじめますね。どう聴いてもラテンなシンコペイションだと言えましょう。やや派手で明るい感じがするのが、暗く陰にこもった印象のこのアルバムのなかでは例外的かも。ブライアン・ウィルスンの8曲目「ビジー・ドゥーイン・ナシン」はボサ・ノーヴァですね。これもやや明るい感じ。
これら三曲のラテン・ジャジーなもの以外は、すべて2ビート、4ビート系のストレートなジャズ・リズムを持つオールド・ポップスに似せてつくられて演奏され歌われているんですね。20世紀はじめごろの感じですね。聴いていて心地いいし、リラックスできて部屋のなかでゆっくりくつろげるし、なかなかインティミットな質感の音楽ですし、しかも仲間内だけよとでも言いたげなクローズドな雰囲気もあって、なかなか得がたい個性のアルバムが出現したんじゃないでしょうか。
(written 2019.9.19)
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