ルシアーナ・アラウージョの新作がいいよ
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ルシアーナ・アラウージョ(ブラジル)の新作『サウダージ』(2019.5.23)がけっこういいですよね。表題ほどには情感が表に出ておらず、もっとサッパリした感触ですけど、それがいいと思うんですよ。わりかしジャジーですしね。そう、ルシアーナのこの『サウダージ』はある種のジャズ・アルバムとも言えます。同じブラジルなら以前のアンナ・セットンなんかに通じるようなフィーリングの作品じゃないでしょうか。
正確にはジャジーなポップ(MPB)・アルバムというべきでしょうか、ルシアーナのこれ、そのなかにサンバやボサ・ノーヴァや、またバイオーンや北東部のリズムが生かされているなという、そんなつくりでしょうかね。なかではサンバを活用してある曲が三つと、最も多いと言えるでしょう。でもサンバでもボサ・ノーヴァでもノルジスチでもこれみよがしじゃなく、実に薄味にというか、アッサリと溶け込んでいるのが好印象です。
アルバム『サウダージ』を彩るサウンド面での最大の特色は、アコーディオンが大活用されていることでしょうね。ブラジルでは北東部の音楽でよく使われる楽器ですが、ルシアーナのこのアルバムでは特に北東部ふうでとはかぎらず全曲で活かされています。泥くさいフィーリングを出すことの多いものなんですけど、ルシアーナのこのアルバムでは(ショーロ・アコーディオンに通じるような)洗練されたサウンドに聴こえます。
さらにおもしろいのはポルトガル・ギターがかなり使われていることです。ファドの伴奏なんかでみなさんおなじみのあの音色です。このアルバムはブラジルとならびポルトガルでも録音されたそうで、ポルトガル・ギターはその際に挿入されたんでしょうか。現在サン・パウロ在住のルシアーナにはリスボンでの活動歴もあるので、そういった経緯も理由のひとつかもしれません。
そういった特徴的な伴奏陣が活かされているのは、アルバムのなかでも特に4曲目のバラード「ムクリピ」じゃないかと思います。この曲ではアコーディオンとポルトガル・ギターだけが伴奏なんですね。その二台だけのデュオ演奏に乗ってルシアーナが、ここではサウダージ横溢のヴォーカルを聴かせます。シットリ聴かせる力があって、このワン・ナンバーは絶品ですね。アコーディオンとポルトガル・ギターのからみってこんな感じのサウンドになるんだという、新鮮さもあります。
8曲目の「ジュラ」もシンプルな伴奏編成でアコーディオン中心、ここでのルシアーナの歌もかなり聴かせますよ。7「クピドス」はややロック調、6「ジガ」はシンプルなボサ・ノーヴァで、北東部ふうのエキゾティズムを持つ3「ジャブチカベイラ」(のイントロをポルトガル・ギターが弾く)や5「シンプレズ・アシン」では、パーカッション群もにぎやかに活躍しています。
ルシアーナの『サウダージ』、全体的に演奏もヴォーカルもこなれていてサッパリ味、後口よいさわやかさじゃないですか。アクなんかはぜんぜんないので、まあガツンとくるものもないっていうか、ひとによっては物足りなさを感じるかもしれない音楽ですけど、こういった軽い口あたりのあっさりミュージックもたまにはいいですよね。良質のブラジリアン・ポップ・ミュージックだと思います。
(written 2019.9.21)
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