多彩なリズム・アプローチのブラジリアン・ジャズ 〜 ベト・コレーア
https://open.spotify.com/album/0PPwShQGs4lO9OYZMfsMMz?si=KHe9OW19RuisQhY1WFJDyQ
bunboni さんのブログで読みました。
https://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2019-03-30
ブラジルの新進ピアニスト(&アコーディオン奏者)であるベト・コレーアのデビュー作『Dias Melhores』(2018)。この作品最大の特色は、リズムの多彩な表現にあるんじゃないでしょうか。たぶんブラジル人ミュージシャンでしか演奏できなさそうないろんなリズムをジャズのなかに活かしているっていう、そういう音楽じゃないかと思います。さらに、躍動的でありながらサウンドの当たりはやわらかいんです。メロディがきれいだからですね、きっと。
いきなり1曲目「Corredeira」 の出だしでピアノ・リフが鳴りはじめるところからして鮮烈な印象を残しますし、ベトのピアノに引っ張られるようにバンド全体が奏でているリズムも活き活きとしていて、しかもさわやかですよね。さらに、書きましたようにベトの書くメロディはきれいなので、聴いていてやわらかい印象があります。リズムのさわやかさ、華やかさ、に加えて当たりのいいきれいなメロディ、こういったことがベトのこのデビュー作の特長ですね。
リズムの躍動感を抑えた、かなりロマンティックでリリカルなアルバム・タイトル曲の3「Dias Melhores」を経て、続く4曲目「Baião de Agradecimento」はタイトルどおりバイオーンです。ベトがアコーディオンを弾くこの曲がぼくは大のお気に入りなんですね。ブラジル北東部出身のバイオーンのリズムがやっぱりなんといってもいいんですけど、同時に、まあアコっていう楽器の音色のおかげもあるとは思いますがあたたかみのある曲で、ソフトで聴きやすいですよね。
言い換えれば親しみやすさっていうか、このデビュー・アルバムでベトが書いている曲はどれもファミリアーな感触があって、聴いていてなごめて、角ばったところがなく、だから好きなんですよね。4曲目のアコでバイオーンを弾くっていうのは定番ですけど、ベトならではの親近感のある仕上がりになっているのが好感触です。
やや抽象的に展開する5曲目「Pega o Saci」ではピアノで演奏する細かい反復リフが耳につきますが、続くヴァルサ(ワルツ)の6曲目を越して、7曲目「Novilho Brasileiro」ではやや野生的っていうか土着的なフィーリングがしますよね。ドラマーもパーカッション群を重ねていますが、このリズムの洗練されていない感じが、かえっておもしろい味をこの演奏に加えていると思います。
4曲目のバイオーンと同じくらい好きなのが、リズムが複雑で入り組んでいる8曲目の「Cinco Entrevado」。これ、しかしなんだかわからないリズムの組み立てになっているなあと思ったら、アルゼンチンのチャカレーラの3拍子+2拍子の応用であると bunboni さんに教えていただきました。こう書くとむずかしそうに思えますが、ベトらのパフォーマンスは実にスムースで違和感なしです。すごいなあ。斬新で、なめらか。
やはりアコーディオンをベトが弾く9曲目の親しみやすさを通過して、アルバム・ラスト10曲目はいかにも2010年代後半の現代ジャズといった趣。これだけはアメリカ合衆国人のジャズ・メンでも書いてやりそうな曲です。リム・ショットも効果的に入れているドラマーの叩きかたがぼくは好きです。
(written 2019.8.27)
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