わりかしふつう、ラテン・ジャズ最前線??〜 カーティス・ブラザーズ
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<ラテン・ジャズ最前線>などという謳い文句をみかけたので、それについついうっかり釣られて聴いたカーティス・ブラザーズの最新アルバム『アルゴリズム』(2019.8.23)。これ、しかしふつうのハード・バップ作品じゃありませんか。ことさらラテン・ジャズというほどの内容じゃないよう〜。いま2019年にこういった1950年代的ハード・バップがどこまで意味を持っているのかわかりませんが、でも最近ふだんは聴かなくなっているスタイルですから、かえってちょっぴり新鮮で、最後まで聴いちゃいました。そんでもって、ほんのりかすかにはラテン色がありますね、たしかに。
ラテン・ジャズ云々と言われるのは、カーティス・ブラザーズの実体であるベーシストの弟ルケス・カーティスと兄であるピアニストのサッケイ・カーティスがプエルト・リコ系のジャズ・メンだからじゃないでしょうか、たぶん。でもってラテン、サルサ系の音楽家との共演キャリアもしっかりあって、といったような両名の素性・経歴でもって、そんなレッテルを貼られているということだろうと思います。
しかし中身はふつうのハード・バップである『アルゴリズム』収録の九曲はすべてサッケイが書いているらしく、またバンドのメンツはピアノとベースのカーティス兄弟に、ブライアン・リンチ(トランペット)、ドナルド・ハリスン(アルト・サックス)、ラルフ・ピータースン(ドラムス)。そしてどうやらこのアルバムはライヴ収録のようですね。
ごくごくあたりまえにふつうのハード・バップである1曲目「スリー・ポインツ・アンド・ア・スフィア」で幕開け。この後も基本この路線で進むんですが、なかにところどころラテン・ジャズっぽい演奏も出てきますので、そういった部分だけメモしておきます。2曲目「ファイ」でドラマーのラルフ・ピータースンがちょっとおもしろいキューバン・ビートを叩き出していますね。サッカイのピアノとあいまって、ちょっぴりボレーロ/チャチャチャっぽいといえるかも。ホーン・アンサンブルもそんな感じですね。
ドラマーのことを書きましたが、実際このラルフ・ピータースンは、今作においてはカーティス兄弟以上の主役ですね。あたりまえの4/4拍子のメインストリームなジャズ・ビートを演奏しているときにでも、手数多めでにぎやかで、ややポリリズムっぽい入り組んだリズムを表現していますよね。このアルバムを最後まで飽きずにぼくがなんども聴けたのは、ひとえにラルフのドラミングのおかげと、あとはベテラン、ドナルド・ハリスンのパッショネイトなアルト・サックス・ソロのおかげです。
4曲目「パラメトリック」。これは完璧なラテン・ジャズだといえましょう。いやあ、こういった曲や演奏はいいですねえ。サッカイのコンポジションもピアノ演奏も見事です。各人のソロ内容もいいですが、やはりぼくはそれらのバックでサッカイが弾くややサルサっぽいノリのブロック・コード伴奏と、ラルフのポリリズミックなドラミングに耳が行きます。
ラテン・ジャズとはいえないものの、かなり美しいバラードである5曲目「トーラス」を通過し、7曲目の「アンディファインド」。これがかなりの聴きものです。ストレート・ジャズとラテン・ジャズの中間あたりにあるような曲ですけど、熱量がハンパじゃないです。各人のソロ内容も、特にドナルドのアルトなんか、聴いているこっちが溶けそうになるほどパッショネイトですし、みんなの背後でラルフがこれまた壮絶なドラミングを展開しているのが白眉ですね。いやあ、この7曲目の演奏はマジすばらしい。
この激アツな7曲目をアルバムのハイライトとし、あとは一種のクール・ダウンみたいなもんですね。しかしラストの9曲目「センセイ」は特筆すべき出来ですよ。このラスト・ナンバーだけホーンはおやすみのピアノ・トリオ演奏なんですけど、三者が三者とも複雑なラテン・リズムを、それもかみあわないズレたそれを各々がレイヤーしているんです。ことにピアノのサッカイとドラムスのラルフのスリリングなインタープレイには耳を奪われますね。この三人でこういったラテン・ポリリズミックなピアノ・トリオ作品を創ればいいのに。そう思わせるほどチャーミングに聴こえます。
(written 2019.9.10)
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